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データサイエンティストの冒険

アナリティクスは課題認識から。
課題なきところに向上余地なし

工藤卓哉 [アクセンチュア]
【第4回】 2013年1月7日
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医療の情報化について、日本で見落とされている論点

 今回のコラムは、前回触れた課題認識の重要性から入りたい。先日医療情報戦略関連の講演会において、オープニングスピーチを担当させていただき、その後のパネルディスカッションにも参加させていただいた。アナリティクスの領域では、ヘルスケア、社会インフラ事業などの分野はビッグデータの将来性が大きいと見ている。つい最近では山中伸弥教授がiPS細胞でノーベル賞受賞を決める等、再生医療だけではなく、これも予防的医療に対する期待値が上がり始めているからだろう。疾患にかかる前に手を打つ。これは画期的である。

 さて、この講演で筆者は、電子レセプト化といった今関心が高い話題のみならず、受付から重症度/緊急性に応じた治療(トリアージ)、診断、検査、請求処理から処方箋起票までを含むプラクティスマネジメント(病院経営管理機能)の包括的導入の必要性、さらに患者参加型のPHR(Personal Health Record)について先端事例を紹介させていただいた。

 この連載の第1回で触れたように、筆者は前職でニューヨーク市の公共政策に携わっており、その当時の上司、Dr. Thomas Frieden(疾病予防管理センター(CDC)第16代長官)とDr. Farzad Mostashari(オバマ政権で医療IT政策室局長)とともに、医療の情報化と予防的診療のアナリティクスにも取り組んだ。この2人から感じた質の高い医療政策を実現するための優れたリーダーシップの特徴についても紹介させていただいた。

 筆者以外にも内閣官房を始め、医師、診療所や病院の理事や病院経営者などの医療関係者が発表し、休日にも関わらず150名近い専門家や報道関係者の皆さんも熱心に議論に参加されていて大きく刺激を受けた。

 しかし、日本の医療情報化は課題が山積している。日本の現状は、PHRのデータ分析云々以前に、電子カルテの整備が議論されている段階だ。そもそもその規格がHL7(医療情報交換のための標準規約の一つ)なのか、DICOM(医用画像機器間の通信プロトコルを定義した標準規格の一つ)なのか、EDIFACT(電子データ交換プロトコルの略称)なのか、検討段階でサイロのように分散されてしまっていて、各IT提供ベンダの思惑もあり、統一規格が自治体ごとにばらばらと言う状況だ。政策設計に従事していた私としては悲しい限りである。

 また、アメリカのようにSSN(Social Security Number:社会保障番号)のような国民共通基盤IDのような仕組みがない日本では、そもそもバラバラに構築された医療情報システムが、住所変更で他県に引っ越した場合などに串刺しで連携して見えない。何よりも関係機関に連携できなかったり、健診データを追跡して時系列のデータとして解析(コホート解析)を実施できなかったりなど、将来の医療、及び医療政策の質を改善するPDCAサイクルに繋げることができないという大きな課題が残るのである。ビジネスの世界では当たり前となりつつある顧客中心主義、サービス受益者中心主義も、この業界においては取り残されている。

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工藤卓哉[アクセンチュア]

Accenture Data Science Center of Excellence 北米地域統括 兼
アクセンチュア アナリティクス日本統括 マネジング・ディレクター
慶應義塾大学を卒業しアクセンチュアに入社。コンサルタントとして活躍後、コロンビア大学国際公共政策大学院で学ぶため退職。同大学院で修士号を取得後、ブルームバーグ市長政権下のニューヨーク市で統計ディレクター職を歴任。在任中、カーネギーメロン工科大学情報技術科学大学院で修士号の取得も果たす。2011年にアクセンチュアに復職。 2016年4月より現職。 データサイエンスに関する数多くの著書、寄稿の執筆、講演活動を実施。


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