カナダ・マギル大学のヘンリー・ミンツバーグ教授をご存知だろうか。ミンツバーグ教授は、古典的な経営理論を批判する異色の経営学者として知られている。自ら企業の経営者やマネジャーの活動に影のように付き添って現場を研究し、「いいマネジャーは教室では生まれない」を信条としている。氏が考案した「リフレクション・ラウンドテーブル」(グローバルでの呼称は「コーチング・アワセルブズ」)は、自らの経験を題材にして実践と学びを融合させたミドルマネジャー向けの経験学習で、多くの国の企業で導入されている。

「失われた20年」と呼ばれる厳しい経済環境の中で、利益の追求が至上命題となった日本企業からは、コミュニティがなくなり、上司と部下のつながりが薄れ、「学びの場がなくなってしまった」という声が多く聞かれる。そんななか、「現場」を重視するミンツバーグ教授の経験学習法は、迷えるミドルマネジャーたちに新しい「解」を提示することができるかもしれない。

折しも昨秋、「リフレクション・ラウンドテーブル」を日本に導入し、プログラム開発とファシリテートを手がけてきたコンサルティング会社・ジェイフィールが、日本の人事部「HRアワード」のプロフェッショナル教育・研修部門で最優秀賞を受賞した。これは、人・組織に関わる活動において功績を認められた企業の人事部や、採用・育成ビジネスを展開する企業に贈られるもので、ミンツバーグ氏の経験学習法が関係者の間で改めて注目を集めるきっかけをつくった。

果たして、今の日本企業のマネジメントには何が足りなくて、何が必要なのか。この短期連載では、2月下旬に予定されているミンツバーグ氏の来日を前に、ジェイフィールの重光直之取締役らが水先案内人となり、「ミンツバーグ流マネジメント」のポイントをわかり易くお伝えしていく。

連載第1回目と2回目は、神戸大学大学院経営研究科の松尾睦教授と重光氏との対談をお届けする。経験学習の分野に造詣が深い2人に、リフレクション・ラウンドテーブルを中心とした「経験学習」「リフレクション」の意義と課題をあますところなく語り合ってもらった。松尾教授は、前述の「HRアワード」書籍部門において、「『経験学習』入門」で最優秀賞を受賞している。(まとめ/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也、撮影/宇佐見利明)


実践と学びを融合する“経験学習”の意義と課題(上)<br />日本のミドルマネジャーはどうしたら元気になるか<br />――重光直之・ジェイフィール取締役×松尾睦・神戸大学大学院教授松尾睦・神戸大学大学院教授(左)と重光直之・ジェイフィール取締役(右)

重光 「リフレクション・ラウンドテーブル」のファシリテートを手がける我々ジェイフィールが、この度、日本の人事部「HRアワード」のプロフェッショナル教育・研修部門で最優秀賞をいただいたことは、大変光栄に思っています。我々は、今の日本企業のミドルマネジャーにこそ、このプログラムが必要だと思っています。

 そこで今回は、神戸大学大学院経営研究科の松尾睦教授にお時間をいただき、リフレクション・ラウンドテーブルをベースに、日本企業のマネジャーは経験学習をどう考えるべきかについて、意見を交換したいと思います。