「まるで戦前の日本みたいですね……」ある日本人はこう苦笑した。中国の週刊紙『南方週末』における記事改竄問題は、中国国内における言論の自由の問題を浮き彫りにし、世界各国で大きな反響を呼んだ。事態は収束に向かったものの、我々日本人にとって、改めて「近くて遠い隣国」の異質さを再認識させられる事件だった。一般の日本人が現地で当局批判を繰り広げることはまず考えられないため、対岸の火事だと思っている人も多いだろう。だが、中国に渡航・滞在することが多い日本人にとって、「自分の思想や言論も監視されているかもしれない」と感じることは、気持ちのいいものではない。言論統制が止まない中国と我々は、どのように付き合っていけばいいのか。専門家や現地事情に詳しい関係者の声を聞いてみよう。(取材・文/プレスラボ・宮崎智之)

中国は戦前の日本のよう?
言論の自由を巡る『南方週末』騒動

「せいぜいインターネットの検閲くらいかと思っていたら、中国ではまだあんなことをやっていたのか。まるで戦前の日本みたいですね……」

 こう苦笑いするのは、ある中堅出版社に勤める30代の編集者だ。彼が「戦前の日本さながら」と指摘するのは、中国の週刊紙『南方週末』における記事改竄問題である。

 『南方週末』は、体制に対して厳しい論調で知られる。同紙の新年号に掲載される予定だった社説「中国の夢、憲政の夢」が、広東省共産党委員会宣伝部の指示により、発行直前、記者に無断で差し替えられる事件が発生したのだ。

 中国の憲法では言論の自由が認められているものの、実際には当局による検閲が常態化している。『南方週末』の社説も事前に検閲を済ませ、表現などの調整がなされていたが、その後、現場の記者らが休みを取っている間にさらなる検閲が行なわれ、当局の意向に沿う記事に書き換えられたという。

 こうした当局の「横暴」に、編集者や記者らの堪忍袋の緒が切れた。彼らはミニブログ「新浪微博」などを使って抗議の意やストライキを表明。これに共鳴した知識人らも支持の姿勢を示し、署名活動やデモにまで発展した。一週刊誌の騒動は、今や言論の自由を巡った反体制運動の様相を呈した。