欧米のマネーマーケットで空前のパニックが勃発したのは昨年の8月9日だった。まもなく1年が経過する。FRBなど多くの中央銀行は市場の混乱を和らげるために、この1年間に非常時対応の資金供給策を次々と導入した。

 それらの多くは、日銀が過去採用してきたものとそっくりだ。海外中央銀行は流動性クランチへの対処法を日本から学んだようだ。

 しかし、その前段階として、バブルを抑制できなかった日本の失敗の教訓を彼らは生かすことができなかった。BIS(国際決済銀行)は2004年頃から、デフレを警戒し過ぎる金融政策の問題と、それが生む過剰流動性の危険について年報などで警告を発し続けていたが、FRBなどがそれを実務に反映させることはなかった。

 IMF(国際通貨基金)が7月28日に公表した金融市場に関するレポートは、先行きの楽観を許さないものだった。「マクロ経済と市場の相互作用の懸念が高まっている」「銀行は4000億ドルを上回る評価損を計上した。しかし、公表された損失は資本調達を遥かに上回っている」「デレバレッジと資本の節約により、銀行は資産売却や貸し出し基準の厳格化を行なっている。その結果、米国や欧州では信用の伸びが鈍化している」。

 今日の困難につながるクレジット市場の「行き過ぎた楽観主義」の背景には何があったか? BISに勤務していた吉國眞一氏(現新光証券シニアアドバイザー)が近著『国際金融ノート』で興味深い指摘をしている。

 「パングロスの罠」という考え方がある。投資に保証が存在すると見なされると、投資家は成功したケースの最大収益(パングロス値)を基準に投資する傾向がある。

 たとえば、1等賞の賞金が1億円の宝くじの場合、投資元本の100円を誰かが保証してくれるなら、当たる確率がゼロに近くても人びとは1億円というパングロス値に魅せられてそれに過剰投資する。サブプライム関連の投資においては、「高利回り」が「パングロス値」、暗黙の保証が格付け会社による「高格付け」だった。本来、「高利回り」と「高格付け」は両立しないはずなのだが。

 現在、ウォール街ではリストラの嵐が吹き荒れている。「ニューヨーク・ポスト」紙(7月28日付)によれば、バナナ・リパブリック、GAPなどのアパレル業者は、今年秋のファッションに、1930年代の大恐慌時のトレンドを取り入れている。新聞売り少年の帽子、ズボン、バッグなど、当時の都会の貧困層の服装を彷彿とさせるスタイルが今の時代の空気に合うのだという。自虐的である。

(東短リサーチ取締役 加藤出)