リーマンショック以降、凍りついて「ほとんどプラスの動きがなかった」(業界関係者)オフィス市場に回復の兆しが出始めた。ビルオーナー側の賃料値下げにより、一部のテナントが動き始めたのだ。オフィス市場の中心である丸の内でもそれは例外ではない。しかし、その先行きには依然不透明感も漂う。

 東京・丸の内で今春、“異変”があった。東京駅八重洲北口で森トラストが賃貸する「丸の内トラストシティ」内の2棟のオフィスビルが、最大20%もの大幅な賃料値下げを行なったのだ。

 名実共に日本のオフィス市場の中心である丸の内。しかも東京駅と隣接する竣工直後のビルとなれば、これまでは賃料に関していくらでも強気の設定ができた。

 だが2008年末に竣工した丸の内トラストタワー本館は、稼働率が約50%にとどまっていた。また、他の新規竣工ビルへのテナントの移転が相次いだ既存ビルのN館では、3階から19階までのオフィスフロアのうち、案内板で入居テナント名が確認できたのはわずか7フロアという状況だった。

 同様の話は枚挙にいとまがない。「大手町の新築のAクラスビルで、周囲の相場より4割ほども低い坪3万円台でテナントの募集が出ていた」「丸の内の最大手ディベロッパーですら、既存テナントの求めに応じて10~20%の値引きに応じている」(仲介業者)。市場の値下げ圧力に、超一等地の丸の内もついに逃れられなくなっているのが、厳然たる現実だ。

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 丸の内で起こっていることは、増幅して周辺に広がっている。六本木ヒルズでは「ピーク時には坪6万円台で募集がかかっていた賃料が、現在では3万円台に下がり、改装費も負担するとの条件が出されている」と、業界関係者は言う。さらに「6ヵ月から1年間のフリーレント(家賃無料)条項をつけなければ契約がまったく取れない」と大阪のあるビルオーナーはこぼす。“オフィス賃料ディスカウント”の波は、全国に広がりつつある。

 08年下期、リーマンショックの打撃をじかに受けたオフィス市場はまさに「凍結」状態だった。

 まず、賃料相場を牽引してきた外資系金融機関や、こぞって一等地に大量に床を借りていた新興不動産企業が破綻し、大量の契約解除が出た。六本木ミッドタウンなどの有名ビルでも大量の空き床が発生した。