カンボジア 2013年1月22日

「プノンペンの奇跡」を知っていますか?
水道の話です。

朝日新聞のマニラ支局長などを経て2009年に単身カンボジアに移住、現地のフリーペーパー編集長を務めた木村文記者が、カンボジアの「水道改革」についてレポートします。

プノンペンでは先進国並みに水道が使えて、料金も安い


「プノンペンの奇跡」をご存じだろうか。

 水道セクターではよく知られた話なのだが、市内の9割で水道が使えるようにし、先進国並みの「無収水率」を達成したプノンペン水道公社の改革のことを、こう呼ぶ。

 無収水率とは、漏水や盗水で浄水場から配水したのに料金が徴収できない割合のことで、水道システムがどれだけ適正に管理されているか、を映し出す数字。低ければ低いほど、優れた水道事業が運営されていることになる。

 改革前のプノンペンでは、この無収水率が72%にも及んだ。配水した水の7割以上の料金が徴収できていなかったのだ。それが現在では6%以下にまで改善された。これは、タイのバンコク(33%)、イギリスのロンドン(26%)、イタリアのトリノ(25%)などよりもずっと低く、東京都(約3%)には及ばないものの、ドイツのベルリン(5%)や米国のロサンゼルス(9%)並み。カンボジアが、1991年まで内戦をしていたことを思えば、まさに奇跡的な改革だ。

 確かにプノンペンの水道水はきれいだ。24時間、いつ蛇口をひねっても水が出る。おまけに、私が大家さんに支払う水道料金は月5ドル(約450円)。近隣諸国と比べて「高い」と悪評の電気料金が、一人暮らしの私でさえ月50ドル前後にまでなることを考えると、「プノンペンの水は安いなあ」と感じるのが正直なところだ。

 奇跡を成し遂げた水道公社チームを指揮したのが、エク・ソンチャン前プノンペン水道公社総裁(63)だ。ソンチャン氏は2006年、その功績で、アジアのノーベル賞「ラモン・マグサイサイ賞」を受賞した。また2010年には、プノンペン水道公社が、世界的に優れた水の管理を顕彰する「ストックホルム産業水大賞」に選ばれた。

 ソンチャン氏が、のちに水道公社となるプノンペン市水道局に着任したのは1993年のこと。当時、水道局は「電気代さえ払えない破産状態」だったという。職員は3割程度しか出勤せず、水道料金の徴収もいい加減で、集めた水道料金の一部が徴収担当者のポケットに入ることも珍しくなかった、とソンチャン氏は言う。

 改革に乗り出したソンチャン氏は、まず海外で教育を受けた若手職員12人を選び、タスクフォースを作った。既存の職員の役職をあからさまに奪うようなことはせず、まったく別部隊を作って運営の実権を握り、水道料金の一覧表を支払い窓口に張り出して、料金徴収者がワイロをとれないようにするなどの改革を断行した。

市内中心部にあるプノンペン水道公社の建物【撮影/木村文】

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