流通業界に「ショールーミング」という用語がある。家電量販店を訪れて、お目当ての家電製品の品質や性能を確かめ、自宅へ戻ってインターネットで最も安いものを購入する消費者行動をいう。

 家電量販店の側ではその防衛策として、ポイント還元のほかに、店頭の商品タグにバーコードを貼り付け、スマートフォンによってインターネット上の市場価格と比較できるような仕組み作りを採用しているところもある。

 消費者によるショールーミングは、価格だけが動機ではないようだ。書店で立ち読みをした後に、自宅へ戻ってアマゾンで発注するのも、ショールーミングの一種である。誰が手に取ったのかわからない書籍を書店で買うよりも、インターネットで購入するほうが「手垢がない」という動機もあるようだ。

 洋服を購入する場合は、その場で試着してみないとわからないケースが多いので、ショールーミングの割合は少なくなる。とはいえ最近は、自分の顔写真をパソコンやスマホの画面に貼り付けて、それに服を重ね合わせた「試着もどき」で購買するケースもあるようだ。

 ネット通販業者の話を聞くと、インターネットで返品特約を付けて販売した服は、返品率が非常に高いという。購入者の側からすれば、通販で購入した服を実際に着てみて、「イメージと違う」と憤るからであろう。パソコンの画面に「顔写真」を貼り付けることはできても、「体型」までは貼り付けられないところに難点があるようだ。

 ネット通販業者の側が嘆くのは、返品率の高さだけではない。クーリング・オフ期間中に、徹底的に着用する剛の購入者もいて、返品されても再販売が不可能になってしまう服が多いらしい。ショールーミングが、ネット通販業者の利になっているとは一概にいえないようだ。

対前年同月比の売上高が
100%を下回る流通業界

 今回取り上げるイオンとセブン&アイは、家電量販店やアパレル業界と同じ流通分野に属するが、ショールーミングの割合は少ない。耐久財よりも、食料品などの消耗財を多く扱うからだ。むしろ問題は、次の〔図表 1〕が示すように、対前年同月比の売上高のほとんどが、100%を下回っている点にある。

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 〔図表 1〕は、イトーヨーカ堂やイオンなどが加盟する日本チェーンストア協会「販売統計/月次統計」に基づいて作成した。これを見ると、日用品の一部を除いて2012年(平成24年)の販売額は100%を割り込み、右肩下がりで推移していることがわかる。

 これだけ減収(売上高の減少)が続くと、業界にとっては「御家の一大事」だ。ところが不思議なことに、イオンやセブン&アイに対する経営不安の声をあまり聞かない。なぜなのだろうか。

 今回はそうしたことを発火点として、収益性とキャッシュフローの両面から、流通業界が抱えるジレンマを探ってみたい。