シェールガス/オイルの生産拡大で
世界各国のエネルギー戦略が変わる

【テーマ11】エネルギー<br />シェールガス革命で激変するエネルギー調達戦略<br />対米エネルギー外交を強化し、天然ガスシフトを急げ<br />――伊原賢・独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 上席研究員いはら・まさる
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)上席研究員。1983年東京大学工学部卒、94年工学博士(東京大学)、2008年より石油・天然ガスの採掘技術の調査分析に従事。著書に「シェールガス争奪戦 日刊工業新聞社」、「シェールガス革命とは何か 東洋経済新報社」、「天然ガスシフトの時代 日刊工業新聞社」など多数。

 2013年は、世界各国のエネルギー戦略が、一気に変わる可能性がある。なぜなら、2005年からアメリカを中心に徐々に円熟味を増してきたシェールガス/シェールオイルの採掘技術により、本格的な生産拡大が確実になったからだ。

 シェールというのは、書道で用いる「すずり」のような黒っぽい岩で、「頁岩」(けつがん)と呼ぶ。頁岩は泥岩の一種で、地下に堆積した有機物である1億数千万年前のシダや藻などの植物の死骸に、圧力がかかって温度が高まり、炭化水素に変わったものだ。炭化水素のもとになるので「石油根源岩」という言い方もする。英語で「ソースロック(source rock)」と呼ぶのはこのためだ。

 この岩の隙間に取り残されているガスや油をシェールガス/シェールオイルと呼んでいる。

 これまで、この隙間に存在するガスやオイルは、取り出すことができなかった。なにしろ、その隙間は、10-9m(ナノメートル)で、面積に直すとわずか10-18平方メートルという狭い隙間に閉じ込められている炭化水素である。

 メタン分子は化学式で「CH4」と表記される。CとHの距離が10-10m(1オングストローム)であり、メタン分子の大きさはちょうど頁岩の隙間の10分の1くらいの大きさだ。そういうものが分子の大きさの10倍程度の隙間に収まっていると、動けない状態になる。

 それを採掘するためには隙間である道を大きくして、動ける状態にする必要があるのだが、1万倍(10-14平方メートル)にすると、ガスが自然と流れる状態になり、ガスが取り出せるわけだ。

 シェール層にあるナノレベルの狭い隙間では、ガスの圧力が低くなっても、分子1個1個がその壁を跳ね返りながら進む「クヌーセン拡散」と呼ばれる現象が起き、流れやすくなるということが最近分かってきた。シェールガスの開発当初1990年頃は、数%しかガスを回収できないと考えられていたが、この自然現象のおかげもあって、2005年以降シェールガスの商業生産は加速化した。