麹町経済研究所のちょっと気の弱いヒラ研究員「末席(ませき)」が、上司や所長に叱咤激励されながらも、経済の現状や経済学について解き明かしていく連載小説。嶋野主任の甥・ケンジに経済学と経営学の違いを講義してきた前回までに引き続き、今回は、経済学で貧困問題を解決できるか?を考えます。(佐々木一寿)

「どうすれば貧困を解決できるのか…*1。うーん。。。」

*1 第8回、註4を参照。経済学の基礎を作った立役者、アルフレッド・マーシャルのその動機は、なぜ貧民街で貧困に喘いでいる人たちがいるのか、という疑問にあったという。cf. Grand Pursuit: The Story of Economic Genius’,Sylvia Nasar 2011

 ケンジは、叔父の嶋野主任と末席研究員による漫才仕掛けの講義のせいで、どうやら当初の「おカネ儲けに役立つか」という目的をすっかり見失ってしまったようだ。

完全雇用は理想か現実か…

 末席は、ケンジが自分のペースに乗ってきていることを確認しつつ、ケンジをさらに一歩、経済学側に引き寄せるべく誘導を試みる。

「人間、どちらかというと貧困に陥らないほうが幸せそうですよね。それを実現するためにはどうすればよいのでしょうか」

「うーん。まあ、贅沢をいえばキリがないとして、ある程度のおカネが定期的に得られれば*2、なんとかなりそうな気がします」

*2 やや経済学的に言うところの「所得等の安定した状態」

 わが甥は、なんと経済学的なセンスに溢れているんだ。嶋野は目尻が緩みそうになるのを、必死に我慢している。

 末席は、ヤレヤレと思いながらも、嶋野の反応を肯定するように続けた。