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『うつ』のち、晴れ 鬱からの再生ストーリー

会社のために死んだりしない。
心の危機を乗り越え、脱サラへ

~ 39歳男性(既婚/ゼネコン勤務)の場合【後編】 ~

西川敦子 [フリーライター]
【第2回】

 「感覚が麻痺したみたいな状態だった」

 当時の状況を、小野寺さんはこう表現する。歯医者で麻酔を打たれると、口の中が痺れて味覚や触覚がなくなってしまうが、うつの症状もちょうどこんな感じらしい。食欲や眠気など日常あたりまえに覚える欲求が、まるで感じられなくなるという。あたかも分厚いバリアが、本来の自分との間にたちはだかっているような感覚に陥るそうだ。

 さらに症状が進むと、「麻痺」の範囲はどんどん広がっていく。「テレビのドラマ番組を見ていても筋が頭に入らない」「レストランでメニューが決められない」「家庭を顧みず、打ち込んでいた趣味にも興味がわかない」など、「理解力」「判断力」「物事への関心」までも鈍っていく。

 「オレの場合は、そこまでじゃなかった。ただ、以前のように物事を前向きに考えられなくなっていたんだ」

 地方都市に転勤した小野寺さんは、より会社の中枢に近い部署の責任者になった。

うつ、のち晴れ。 「新しい仕事は、わからないことだらけだった。だけど、周囲は後輩ばかり。誰に相談していいかわからなかった。そのうち、自分の仕事に対する自信が、まったくなくなってしまったんだよ」

 心理学の世界には、「SE(自己効力感)」という概念がある。これは、自信や自己肯定感、自尊心の度合いを示す概念で、高い人ほどメンタルヘルスは悪化しにくい。SEが高い人は、自分を正しく評価することができる。長所を把握すると同時に、苦手なこともちゃんとわかる。つまり、周りに弱みをさらけ出すことができる、というわけだ。逆にSEが低いと、それができなくなる。

 私が知っていた学生時代の小野寺さんは、いつも泰然自若としていて、等身大の自分を受け入れているように見えた。だが、問題があっても周囲にSOSが出せずにいたときは、一時的にSEが低下していたのかもしれない。それとも、大企業にはつねにSEを抑制するような力が働いているのだろうか? 少しでも自分の弱みを見せれば、疎んじられ、排除されてしまう――そんな風に思わせる圧力があるのだろうか?

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西川敦子 [フリーライター]

1967年生まれ。上智大学外国語学部卒業。編集プロダクション勤務を経て、独立。週刊ダイヤモンド、人事関連雑誌、女性誌などで、メンタルヘルスや介護、医療、格差問題、独立・起業などをテーマに取材、執筆を続ける。西川氏の連載「『うつ』のち、晴れ」「働く男女の『取扱説明書』」「『婚迷時代』の男たち」は、ダイヤモンド・オンラインで人気連載に。


『うつ』のち、晴れ 鬱からの再生ストーリー

うつをきっかけに、生き方や働き方を見つめ直した人々にフォーカス!うつに負けない、うつを乗り越えるための知恵と活力を探っていく。

「『うつ』のち、晴れ 鬱からの再生ストーリー」

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