世界の先進的な企業のCEOは、日々どのような課題に向き合い、業界に影響を与えるテクノロジーをどうとらえているのか。その一方で自社のIT部門をどう見ているのか。米ガートナーでエグゼクティブ・リーダーシップとイノベーションに関するリサーチを担当するガートナー・フェローのマーク・ラスキーノ氏は、10年近くにわたってCEOを対象とするサーベイを主導してきた。2012年に発表した調査を踏まえ、ラスキーノ氏は「CEOが関心を持つ戦略やイノベーションの議論に、CIOは貢献できていない」と警告する。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 魚谷武志)

CEOとCIOの認識ギャップがあぶり出される

――ガートナーが毎年発表しているCEOサーベイを主導されていますが、その狙いは何ですか。

「CEOが関心を持つ戦略やイノベーションの議論に、CIOは貢献できていない」――米ガートナー・フェロー、マーク・ラスキーノ氏に聞くMark Raskino/米ガートナー リサーチ・バイスプレジデント兼ガートナー・フェロー
エグゼクティブ・リーダーシップとイノベーションを担当
CEOやCIOに向けた調査を主導し、市場動向や技術動向がビジネス戦略とITマネジメントに与える影響について発信している。2008年には共著書として、"Mastering the Hype Cycle"をハーバード・ビジネス・プレスより発行。ガートナー入社以前は、ブリティッシュ・エアウェイズのIT部門にて、ロイヤリティ・プログラムや空港業務システムを担当の後、eビジネス部門のシニア・マネジャーを務めた。

 CEOサーベイは、2003年に経営者のテクノロジーの利用傾向を調べる小規模な調査として、「フォーブズ」誌との協力で始めました。が、2006年に方向転換をして、それ以降は、ビジネス上の課題やテクノロジーに対する姿勢を調べるものとなっています。

 CIOに対する調査と比較参照することで、ビジネスリーダーが考えている課題と、CIOがとらえている課題のギャップが分かってくるのが興味深いです。CIOはビジネスリーダーたちが気づいた課題を6~12ヵ月遅れて目を向ける傾向があるようです。だからこそ、CEOたちの頭の中にあることを分析して、当社のクライアントであるCIOたちが次に何をやるべきなのかを提案できます。

 特に調査の対象としたいと考えているのが、需要サイドから見たテクノロジーの課題は何かということ。IT部門がビジネス指向ではないという批判がよく聞こえてきますが、その理由は、IT部門が独自で課題を設定してしまっていることにあります。たとえば、クラウドへの移行が重要、というように供給サイドの視点で考えがちなのです。それに対し、ビジネス側は新興市場が重要だ、というように考えています。CEOが解決したいと考えているビジネス上の課題は何か、それをCIOはテクノロジーを使って解決の支援をしていくべきなのです。

 2012年に公開した調査で発見できた特徴は2つあります。CEOたちは、BRICsなどの迅速に成長を遂げている地域に対して参入したいと考えているということと、テクノロジーから生まれるビジネスに投資したいということです。