ビジョンとドリームの違いを理解しつつ融合させる

 Aさんはまさにグローバルな意識をもった人物でした。では、そもそも彼は、何を語り、伝えたかったのか。

 「ビジョン」「ドリーム」という言葉があります。ビジョンは主に「会社の将来像」といった使われ方で、そのビジョンを行動指針として具現化したものが経営戦略といえるでしょう。

 一方のドリームは「夢」。それは、個人や家族や仲間などの小さな集団がもつものであり、Aさんの会社のように数万人規模の大きな会社組織がもつというと、あまり馴染みません。

 あえて区分けするとすれば、ビジョンの主語は会社で、ドリームの主語は個人です。そして、誤解を恐れずにいえば、ビジョンにはいくばくかの強制的な要素・ニュアンスがあります。一方、ドリームには強制的な要素・ニュアンスはなく、たんに「共感できるかどうか」でしょう。

 つまり、ビジョンに対しては共感できなくても従うことはできますが、ドリームに対しては、共感できればそれで一体感が生まれ、それだけで一緒に活動ができるのです。

 その点、Aさんの言葉は、私には「自分の夢を語りつつも、会社のビジョンを伝えている」と感じられました。「トップ中のトップともなると、会社のビジョンと自分の夢とが違和感なく融合し、さらに、自然な口調で語ることもできる」と感じたのです。

 その後、Aさんの知人の海外トップ層に会う機会もいくたびかありました。そのうちの一人、オーストラリア人の女性・Bさんも、Aさんと同じような話をふだんと変わらぬ口調でしていました。

 「金田さん、あなたの夢は何?人生最後の日にはどういう自分を想像してるの?」

 そのときも、私は「こうです」とひと言では答えられなかった。どうしても、会社(ビジョン)としてはこうありたいが、自分(ドリーム)としては、こうなったら幸せですね」と会社と自分を分けて考えてしまいがちなのです。AさんやBさんのように、ビジョンとドリームの違いを理解しつつも違和感なく融合させ、気をてらうでもなく、さり気なく語ることはできません。それができるBさんは、あらためてグローバルな人材とはどういうものかを感じさせてくれました。

 Bさんはこのとき、次のように答えました。

 「私は世界中の貧困な国に木を植え、森を育てたい」

 世界のトップ層がこのような夢をもって、そのためにいまの事業を展開している。壮大な夢の実現をめざしながら目の前の経営の舵をとっているなんて、すばらしいとは思いませんか。