二人だけの機会は、それほど長い時間ではありません。しかし、私には、その時間が異様に長く、濃密に感じられました。

 結局、どうしたか?「主語を個人ではあるが、自分にはしない」という会話です。「私が引っ張って、事業を伸ばしています」ではなく「優秀な人材が豊富で、彼らとともに事業を伸ばしています」といった感じです。
 これが、海外トップ層の理にかなった表現方法でした。

質問は短く、しかし本質をとらえる

 私がDさんに抱いた印象は、まず、「経験が豊富な人は言葉数が少なく、的を射た質問を的確に発してくる」ということです。世界のトップ層とのビジネス、交渉、商談を重ねてきているのですから、饒舌な人にも無口な人にも、ちぐはぐな人にも慣れています。そうしたコミュニケーションの豊かな経験が、どんな人に対しても、話す前にしっかりと「何を聞いたらよいか」を自然に考えさせているのです。
 一方の私は、「すべての質問に答えられるようにしよう」と思いながらも、自分の経験のなかだけで「すべての質問」を考えている。まったく経験の幅が異なる相手に受け身になって対応しようと考えているのですから、その時点でこちらに分があるはずもありません。

 また、そのとき勉強になったことは、「瞬間的に的確に答える能力が海外のトップ層との会話のなかでいかに重要か」ということです。海外のトップ層はこちらの答え方・内容で、その実力や能力を瞬時に見抜きます。そのことにおいては天才的な能力の持ち主です。

 答え方や内容は一瞬にして値踏みされる。そのような怖さがグローバルな人材との交渉・商談ではつねに降り掛かってくると憶えておいてください。
 私の答え方や内容が、Dさんにとって的確だったかどうかはわかりません。しかし、そのような一瞬のあと、私とDさんは“ふだん着”のコミュニケーションに花を咲かせることができたのです。