トップ層ほど会った人の名前を覚えている

 一般的な傾向ですが、人は会った人の顔も名前も、ときが経てば忘れていくものです。顔は憶えているのだけれど名前を思い出せない、ド忘れしてしまったというケースもあるでしょう。また、同じ民族なら憶えやすくても、民族が異なると名前も顔も憶えにくいという傾向もあるようです。
 それに対して、Eさんはまったく違うのです。他の民族でもしっかりと顔と名前を憶えています。アメリカ人から見れば日本人の名前は憶えにくく、また、韓国や中国など他のアジア諸国の人と見分けがつきにくいようにも思うのですが、そういうことはいっさいありません。

 では、彼らはなぜ、忘れないのか。きっと、陰ながら努力しているはずです。いろいろな場面で会う人の情報を仕入れたり、過去に会った人であれば事前に名刺をチェックしながら思い出してみたり。そのような小さな積み重ねがきっとあるはずです。これは言い換えると、彼らは、人=個性を忘れないようにしながら人と組織をマネジメントしていく習慣を身につけている、といってよいのかもしれません。

名前で呼びかけられた人のモチベーションは、
感動とともに最高潮に達する

 では、なぜ顔と名前を忘れない習慣が大切なのか。それは、忘れずに名前で呼びかけられると、その呼びかけられた人は「自分が尊重されている」と感じてモチベーションが上がるということをよく知っているからです。

 日本の大手企業では、じつはこのことがあまり重視されていません。社員数万人の巨大企業の場合、社長が顔と名前が一致する社員は、せいぜい役員か部長クラスがいいところでしょう。ところが海外トップ層の多くは、一度会ったことのある社員は、たとえ一般社員でも忘れず、しかも名前で呼びかける人が多いのです。会ったことのない社員の面談を受けることが事前にわかっていれば、ほとんどのトップ層は会う前にその社員のファイルを取り寄せて、きちんと確認してから面談中は名前で呼ぶようにします。
 そして、これまで雲の上の存在だと思っていたトップ層から名前で呼ばれた社員は、「自分が軽んじられているわけではない」ことを確信し、士気が上がります。やる気が高まり、自分のビジネスにも自信をもって取り組むようになるのです。

 Eさんの場合は、私のことだけを憶えていたわけではありません。当時、接点のあった私の同僚のことも、みな憶えていました。