一定規模のインサイドセールスを事業化するには、電話の敷設やパソコン、関連機器の設備手配など、手続き事務も山のようにあります。機器を切り換えて統一すべきか従来のものを流用するのか、サプライヤーとの打合せも綿密に進めないといけません。それをFさんは一刀両断し、成功したモデルの必要な部分だけ取り入れてスタートさせるのです。
 さらに、設備機器を揃えたあとのオペレーション部分も、一般的には国土の広さやインフラの整備状況などを踏まえながら、どのようなオペレーションがふさわしいかを検討していくのですが、Fさんは、「日本は島国。インフラは十分。だからコレをやれ」と即断です。

 世界各国を視野に入れて、何を共通して取り入れて、何をそれぞれの国の手法に任せるべきか。Fさんは、その「共通化」することに長けた人物。実際のFさんはMBAやその関連書籍でやっていることをストレートに実行し、プレゼンテーションもとてもスマートなのですが、後述するように変にアメリカに偏りすぎないところもある。

 そのような資質も海外トップ層には欠かせないものです。

視点を高くもつことの大切さ

 Fさんとビジネスをしてまず感じたのは、「マーケットをいちばん知っているのは誰か」ということです。対象としているのは日本のマーケットなのですから、このエピソードの場合は、当然ながら私です。ですから、私の立場からすると、「日本のことは私がいちばんよく知っている。そんなほかの国のやり方が通用するわけがない」ということになります。つまり、主語が私(自分)となり、自分が判断するという思考になるのです。

 ところが、Fさんをはじめとする海外トップ層は考え方が異なり、私(自分)を主語とはしません。「バルセロナやプラハ、さらに上海での成功モデルはコレ。そのモデルで各国共通すべきものはコレ。だから日本でも各国共通する部分を先に導入して、各国なりのアレンジはそのオペレーションで対応する」というものです。「自分」というものをあえて消したところでビジネスを考えるのです。
 これを「『だまされたと思ってやってみろ、きっとうまくいくから』と言われ、やってみたらうまくいった」と考えればそれまでです。しかし、それだけではない何かがある。それが自分というものを消した「視点の高さ」だと思います。

 人はつい自分の経験や思いつく範囲でものを考えがちです。ところが、Fさんは、自分で考えられる範囲というものを意に介さずに、高い視点から、やるべきことを指示していたといってよいでしょう。