ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
アマデウスたち

長塚圭史
文化としての演劇を時代に問う

週刊ダイヤモンド編集部
【第18回】 2008年2月29日
著者・コラム紹介バックナンバー
長塚圭史
写真 加藤昌人

 俳優である父、長塚京三の横顔は輝いていた。幼心に羨ましく、憧れすら抱いた。17歳で小屋を借り、大学生に交じって芝居を始めた。「何者でもない自分が、何者かを演じることができる」。その魅力に取りつかれると、「もっといい役が欲しくて」、18歳で初めて脚本を書いた。自分がこしらえた世界に、観る者を引きずり込む快感を知った。

 劇団の仲間とぶつかり合って、がむしゃらに芝居をつくり続けるうちに20代を走り抜けた。気がつけば、若手では抜きんでた存在となっていた。権威ある賞を次々と手にし、客席はいつも満杯になった。「映画でできることを、観客の目の前で起こしてみせる」。事件性を意識したことが、まんまと当たった。だが、30歳を過ぎた今、やり過ごせない違和感を覚える。

 弱さゆえの暴走、純粋なるがゆえの狂気――。社会性の高いテーマを、時にグロテスクなまでにリアルに描く作品群は、決して一般受けを狙ったものではない。なのに人気役者を目当てに押し寄せる客、意図しない場面で笑い、沈黙を崩す客が、劇場に「ぽっかりと大きな穴を開けてしまった」。「演劇と芸能界が一致している違和感がありながら、僕たちもそれに乗ってしまった。かなり危ない。劇場という場所は何なのか、今何ができるのか、真正面から向き合わなければ、演劇は文化として成立しない」。

 王道なき混沌の時代に、生まれ出た鬼才である。

(ジャーナリスト・田原 寛)

長塚圭史(Keishi Nagatsuka)●劇作家・演出家・俳優 1975年生まれ。早稲田大学時代に演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成。作・演出・俳優の3役をこなす。2004年、朝日舞台芸術賞と芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。2007年9月には中世フランスを舞台に吸血鬼とその妻の愛と苦悩を描く「ドラクル」を上演。

関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR
【デジタル変革の現場】

企業のデジタル変革
最先端レポート

先進企業が取り組むデジタル・トランスフォーメーションと、それを支えるITとは。

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

週刊ダイヤモンド編集部


アマデウスたち

様々なジャンル、フィールドで活躍する異才にスポットをあてて紹介する。自身の原点となったコト・モノをはじめ、自身が描く夢まで素顔の異才達が登場する。

「アマデウスたち」

⇒バックナンバー一覧