ベトナム 2013年3月4日

「広告代を月餅50箱で支払いたい」
そんなお客さんもいるベトナム広告集金事情

日本で15年間の編集者生活を送った後、ベトナムに渡って起業した中安記者が、ベトナムの媒体の広告集金事情についてレポートします。

広告代は現金回収が主流。集金専門の社員もいる

 弊社の主力事業は日本語フリーペーパーの発行。つまり媒体に出稿頂いた広告料金が主な収益源だ。主力媒体である月刊誌『ベトナムスケッチ』には、毎号400社以上のお客様から広告を頂いており、これは世界中で200誌を超えると言われる日本語フリーペーパーの中でも、最大規模だと自負している。

 これをご覧になった方から、時々、「広告代の集金って、大変じゃないですか?」という質問を頂く。

 確かにその通り。集金は日本でも大変だが、ベトナムにはベトナムならではの苦労というものがある。

 私がベトナムに来た2002年当時、広告代のお支払いは「振り込み」ではなく「現金払い」が基本だった。ベトナムは、銀行が日本に比べて普及していない。最近は、インターネットバンキングもあるが、実際に活用している人は少ない。特に、比較的小さなレストランや土産物屋さんだと、まだまだ現金決済が主流なのだ。銀行振り込みの割合は、以前に比べると格段に増えたが、今でも30%少々に過ぎない。1号あたり420軒の広告が載っていて、その60%が現金払いだとすると、その数は約250軒。これらを一軒一軒訪ねて歩き、集金して回るのである。

 集金は広告営業スタッフの仕事だが、もちろん、彼らは集金だけをしていればいいわけではない。新規で広告出稿を希望されているお客様の対応、広告デザインの制作や変更、契約書や請求書の作成など、1つの広告を掲載するまでに、やるべきことは多い。そのため、最も広告掲載件数が多いホーチミン市の事務所では、集金専用の女性社員を1人、雇用している。

 彼女は、朝から晩まで、広告主さんのところに、「これから3月号の広告代の集金に伺います。よろしいでしょうか?」と電話をかけて、お金を受け取りに行くだけが仕事。このように書くと簡単に見えるが、実際にお店に行くと、マネージャーさんが急用で出てしまい長時間待ったり、結局、会えずに帰って来たりすることもある。手間がかかるだけではなく危険。実際、集金を終えたばかりの社員が、引ったくりに遭ったという事件も何回か発生している。これはこれで、なかなか大変な仕事なのだ。

 中には「現金ではなく現物で支払いたい」というお客様もおられる。ホテルが宿泊券で、レストランが食事券で払うというのなら、まだ使い道がある。しかし、ある高級ホテルから「月餅で支払いたい」と言われたときは、さすがに困った。季節はちょうど中秋節。日本で言うところの「中秋の名月」にあたる。ベトナムでは中秋節に、月餅を贈り合う習慣があり、その高級ホテルでは自分のホテルオリジナルの月餅を販売していた。こちらから請求している広告代を、月餅の詰め合わせに換算したところ約50箱。本来ならお断りしたいところだが、「どちらにしても、お取引先様に配るように月餅は買うのだから」と、月餅でのお支払いを受けることにした。

日系企業の広告も頑張っている。これは、ホーチミン市最大級の市場・ベンタン市場の横にある広告【撮影/中安昭人】

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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