ガラス基板をどう変えるか

 「韓国勢に有機ELで日本は逆転できる」と述べたが、フィルム・ディスプレイの技術をいまから開発しておかないと、さすがに間に合わなくなる。

 山登りで言えば、現在の55インチ箱形の有機ELテレビは「2合目」に過ぎないから追いかければ十分に間に合うが、150インチのフィルム型(ロール型)テレビができる頃には、有機ELの技術も8合目までいってしまっているから、そこで頑張っても間に合わない。いまなら十分に、逆転ができるのだ。

 では150インチのテレビはどうやってつくるのか。問題は基板である。現在、有機ELの基板はガラスだから、これで150インチサイズのものをつくっても、ただ大きいだけで、丸めたりすることはできない。

 方法としては、ガラスではなく、樹脂(プラスチックなど)基板に変えることだ。それでフレキシブル性をもたせる。あるいは、極薄のステンレスホイルを使ってもよい。ステンレス=金属ではあっても、台所で使われているアルミホイルのように柔軟性を持たせることができる。ガラス自体を進化させる手もある。50ミクロンくらいの薄さにすると、ガラスもペラペラにたわむ。このため、極薄の「ガラス+樹脂」の組合せも考えられる。要するに、基板さえ変えればペラペラにできるのだ。

ターゲットは超大型

 このような素材を基板に使えば技術的には可能なのだが、技術だけではなく、コストのことも考えなければならない。

「有機ELはきれいだが、値段が高い」というのが、これまで有機ELが液晶になかなか勝てなかった理由のひとつだから、いま、液晶や有機ELで使われている一般的な青板ガラス(通常のガラス)よりも高い基板をわざわざ使って、さらに有機ELの製造コストを高くするのは考え物だ。まだ、液晶は十分に元気だからである。また、少なくとも「中小型」ディスプレイであれば、わざわざフレキシブルにする必要もないだろう。

 ソニーが試作した2.5インチ角の小さい曲げられるディスプレイは、試作としての意味は十分にあった。しかし、試作はともかく、本当にフレキシブル・ディスプレイで必要としているのは「超大型のディスプレイ」である。

 これは間違いなく大きな市場になる。ライバル・韓国サムスンは「大型フレキシブルディスプレイ化」の技術をもっているかというと、答えは「否」である。もっているのは、「日本」の部材、樹脂メーカーであり、さらに成膜していく技術、もちろん有機ELの技術も日本にある。

 だから、「150インチ・フレキシブル有機EL」ディズプレイの開発・製品化に最も近い位置にいるのは、他ならない「日本」なのだ。

 また、有機ELはディスプレイだけではない。前回も少し触れたように、照明の世界では有機EL(面発光)はLED(点発光)と照明市場を2分していこうとしている。これら有機ELの強みが、日本経済復活の狼煙となると期待されているのだ。

 実は有機EL以外にも、有機太陽電池、有機トランジスタといった「有機エレクトロニクス」という有機全体の発展が見られる。そこで次回は、これら「有機エレクトロニクス」の世界を見ていくことにしよう。

(次回は3月15日更新予定です)


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