株式レポート
3月12日 18時0分
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「脱デフレ」をテーマに買われる銘柄 - 広木隆「ストラテジーレポート」

日経平均は先週末8日にリーマン・ショック直前の2008年9月12日終値を上回った。翌日の日経新聞はこの4年半の株式市場を振り返って、2008年9月12日から3月8日終値までの株価騰落率で上位に並んだ銘柄を、「新優良銘柄」と紹介している。アンリツ、サンリオ、ファーストリテイリング、ソフトバンク、ユニ・チャーム、ピジョンなどだ。これらに共通するのはこの間に株価が2〜5倍と大きく上昇したが、利益もまたほぼ同率で増大している点である。利益の拡大に合わせて株価が上昇した - つまりバリュエーションにはそれほど変化がないということだ。

日経平均採用銘柄の中で2008年9月12日から3月8日の株価騰落率トップはファーストリテイリング(以下ファストリ)である。日経平均リーマン前回復の原動力となった。ファストリと言えば、「デフレ不況の勝ち組」という印象がある。デフレでみんながおカネを握りしめ消費が伸びないなか、低価格だけど高品質な商品で需要を開拓した。もちろんヒートテックなどの品質のよさも成長の鍵だけど、やはり「デフレ×低価格」が勝ち残れた理由だろう。

事実、アベノミクス相場が始まる以前、2008年9月12日から昨年11月14日までの日経平均採用銘柄騰落率ランキングでは、1位ファナック、2位ソフトバンクに次いでファストリは5位に入っている。デフレ下で強かったことの証だろう。

2008年9月12日から3月8日のファストリの上昇率は176%、つまり株価は2.8倍になったわけだが、2008年9月12日から昨年11月14日までの上昇率は46%、約5割上昇したに過ぎない。一方、アベノミクス相場の起点ともいえる昨年11月14日から3月8日までの上昇率は88%、ざっくり言って倍になっている。この間の日経平均の上昇率は約4割だから大幅なアウトパフォームである。

ということは、ファストリはデフレ感が強かった時代も株価は堅調だったけれど、デフレ脱却期待が強まったアベノミクス相場でも良好なパフォーマンスとなっているわけだ。

アベノミクス相場の起点、昨年11月14日から3月8日までの上昇率を業種別に見たのがグラフ1である。トップは証券株。これは株式市場がこれだけ活況に沸いているのだからわかりやすい。2位のゴムはタイヤメーカーの好業績を反映したもの。天然ゴム市況の下落で原材料費が下がった恩恵もあるが、為替の円安効果が大きい。海運、鉄鋼なども円安の恩恵を受けるが、それよりもこれまで売られた反動、リターンリバーサル効果でのランキング上位入賞だ。不動産、倉庫は「脱デフレ」=インフレでの土地の値上り期待、自動車、機械は円安プラス世界景気の改善期待で買われた。この相場の「本命」業種。銀行、保険も大胆な金融緩和→金利低下の思惑が背景にある。このランキング結果はどれもアベノミクス効果を反映している。納得のいくところだ。



日経平均構成銘柄の昨年11月14日から3月8日までの上昇率ランキングを見ると、トップはマツダ。自動車株のなかで円安効果の恩恵がもっとも大きい銘柄だ。ところがファストリはこの間のランキングでも13位となっている。自動車や不動産、金融株などアベノミクス相場の主役に交じって堂々のパフォーマンスである。そして今月に入ってからはさらに株価上昇に弾みがついている。月初来のパフォーマンスはダントツの1位である。(3月8日時点)

2月25日付レポート「レンジを切り上げる」で指摘したのは、今年に入ってからの日経平均は500円幅のレンジでボックス相場を形成しており、その株価リズムから3月はひとつレンジを切り上げて11,500円〜12,000円の値動きになるだろう、というものだった。ところが、ここにきて日本株相が一段と上げ足を速めて想定レンジの上限を抜けてきている。昨年の衆院解散から安倍政権誕生まで初期アベノミクス相場の盛り上がりから、年明けは少し上昇ペースが鈍った。相場の基調は崩れないもののアベノミクスの実現性を見極めようとする気分が優勢だった。それが3月に入ってからというもの、上昇ペースが再加速した。
政府が2月末に、黒田東彦アジア開発銀行総裁や岩田規久男学習院大教授らを次期日銀正副総裁に充てる案を国会に提示。材料出尽くしとの見方もあったが、相場は逆に騰勢を強めた。アベノミクスに対する懐疑的な意見が影をひそめ、市場も世の中もようやくアベノミクス支持に大勢が固まったことの表れだろう。その3月の相場のけん引役は、これまでのところファストリであったのだ。

ファストリといえば「デフレ不況の勝ち組」のイメージと述べた。だからアベノミクスでデフレ脱却期待が強まれば「御役ご免」となってもおかしくなかった。それがそうはならず、むしろ相場の主役を張っている。これをどう考えればよいだろう。

もちろん値がさ株の代表であるファアストリの値動きは日経平均への寄与度が大きいために、仕掛け的に先物を買い上げて指数を動かす、いわゆる「指数プレイ」の影響を多分に受ける部分もある。直近で騰勢を強めたのは、好調だった2月のユニクロ既存店売上高の発表がきっかけであり、そしてそれは厳冬の影響があったことも割り引いて考える必要があるかもしれない。しかし、それ以外にファストリが選好される理由があるのではないか。

3月4日付けレポート「遠慮近憂」でも述べたが、デフレというのはモノの値段が下がり、相対的におカネの価値が上がること。だからみんながおカネを握りしめて使わない。これがデフレ不況の構図である。その逆にインフレはモノの値段が上がって、相対的におカネの価値が下がること。そうなれば、今度はおカネを手放す行動になる。実際に海外旅行や輸入品の購入には駆け込み需要も観察されている。先日来、報道されているが百貨店などではブランド物や高級腕時計など高額商品の売れ行きが好調だという。

分かりやすい表現をするならば、インフレ期待が高まると「カネ放れが良くなる」ということなのだ。但し、デパートで何百万円もする時計を買う層は、ごく限られた一部の人である。大多数の人は、まず身近なところでおカネを使うのだろう。インフレになる、と言ったって、何も明日からいきなり物価が上がり始めるわけではない。給料が上がるかも?という期待はあっても現実に手取りが増えたわけではない。普通の人は、いきなり不動産を買い漁ったりはしないのである。

では、どこでおカネを使うか?これまで数年間、続けてきたライフスタイルをいきなり180度転換はできない。昨日までユニクロで服を買っていた人が、いきなりエルメスで買い物をするようには、(まだ)ならないのである。今まで(ユニクロでさえ、と言ったら失礼だけど)店内を回ってウィンドウショッピングだけして結局何も買わずに出てきた人が、靴下1足でも買うようになる。ヒートテック1枚買うつもりが、もう1枚余分に買ってみる。まだ着られるのがあるから今年は買わないでいいかな、と思っていたけど、やっぱりダウンを買ってみる。GUのレギンスが春っぽくてかわいいから買ってみる。身近な消費とは、そういうことではないか。

インフレになる、というのはやや先走り過ぎ。今の実体は「デフレ圧力が緩む」くらいの感覚だ。その時、先ず動き出す消費の受け皿に一番なるのは、これまでデフレのなかで消費者をがっちりつかんできたユニクロなのではないか、と思えるのだ。

「脱デフレ」=インフレ関連ととらえれば、買われる銘柄は不動産や土地持ち企業。「脱デフレ」=金利の正常化、おカネの流れの活性化ととらえれば金融株。「脱デフレ」=円高の終焉ととらえれば外需輸出株。そこに、もうひとつプラスするとすれば、「脱デフレ」=カネ放れがよくなる=消費関連、という絵も描けるだろう。

昨日で震災から2年。日経平均はリーマン前水準を回復、欧米に後れはとったがようやく「危機モード」から脱出した。被災地の復興はまだまだ道半ばである。一足先に株式市場が先鞭をつけた。東北の復興が少しでも早く、株式市場を追いかけるように進むことを願いたい。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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