経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第26回】 2013年3月19日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【岩井克人氏×武田隆氏対談】(前編)
学生ベンチャーを救った会社の二重構造

「会社」とはヒトなのだろうか、モノなのだろうか?シンプルなようでいて、突き詰めて考えていくとむずかしい問いかけだ。
武田隆氏は学生ベンチャーとして起業して数年後にベンチャーキャピタルからの出資を受けると決めたとき、ある種の混乱に陥ったという。それは、「家族のようなドラマチックな唯一無二の関係」が、交換可能なお金で計算されるモノへと変わったことへの違和感だ。
今回のゲストは、国際基督教大学客員教授の岩井克人氏。貨幣論の権威とベンチャー起業家というユニークな取り合わせでは、まずこの「違和感」の正体を考えてみよう。

会社は「ロマンとそろばん」を合わせ持つ

武田 エイベック研究所は学生ベンチャーから始まったので、最初はほんとうに貧乏で、仲間どうし、飽食の時代といわれる現代で空腹と戦っている自分たちを笑っていた時期もありました。

 それから、少しずつ組織も事業も大きくなり、自社開発に専念するため、出資を受けようということになりました。そうすると、ベンチャーキャピタルからは、投資の対象、つまり将来利益を生み出すかどうかという「お金目線」で見られるわけです。家族のようなドラマチックな唯一無二の関係が、交換可能なお金で計算される。それがなんとも違和感がありまして……。

岩井 その違和感は正しいと思いますよ。

武田 「僕たちの会社を他の会社と比べるな」とか(笑)。でも、ベンチャーキャピタルの方々と付き合ううちに、彼らもファンドの出資者に責任を持っていて、ファンドの出資者の方々も銘々の想いを乗せ、ベンチャーキャピタルにお金を託している。ベンチャーキャピタルだって、それらの約束を裏切らないために、私たちが出資するに足る相手かを見極めようとしている。だから当然、投資した後の利回りが他社と比べて優れているかどうかをしっかりと確認しなくてはならない。

 つまり、交換不可能なドラマと交換可能な貨幣。いうなれば、「ロマンとそろばん」ですね。この一見相反するふたつのことが、同時に起きていて、そしてどちらもリアルで誠実なことだとわかったんです。このあたりから、だんだん、混乱してきて……。

岩井 おもしろいですね、続けてください。

武田 理解できてからが大変でした(笑)。日々起こるさまざまな出来事が、あるときは交換不可能なドラマチックなものに見え、また、あるときはお金で換算できる交換可能なものに見える。どちらかが本当で、どちらかが間違っていると考えると、わけがわからなくなりました。

岩井克人(いわい・かつひと)
国際基督教大学客員教授。1947年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。マサチューセッツ工科大学Ph.D.イェール大学助教授、東京大学経済学部教授などを経て、現在は東京大学名誉教授、東京財団上席研究員、武蔵野大学客員教授も務める。"Disequilibrium Dynamics"にて日経経済図書文化賞特賞、『貨幣論』にてサントリー学芸賞、『会社はこれからどうなるのか』にて小林秀雄賞受賞、ほか著書多数。

岩井 その感覚は非常に本質的だと思います。お金を貸すということは、英語で「クレジット」といいます。この語源は「クレド」といってラテン語で信仰、信条を表す言葉なんです。神を信じること、それが人を信じることにつながり、この人はお金を貸すに値する人だと信用してお金を貸す、という意味になったんです。本来、お金を貸すのは信用に基づく行為なんですよ。

武田 そうだったんですね。私は岩井先生の『二十一世紀の資本主義論』を読んで、「法人」という概念、つまり会社は「ヒト」であり「モノ」であり、その両義性を持つものだということが理解できて、混乱から抜け出すことができました。あのとき、クリアになった視界に助けられました。つまり、「法人」とはなにか?という問いに対する解答ですね。

岩井 理論が実践で役立っていると聞いて嬉しいです。人が集まって団体をつくる。その団体それ自体を法律上「ヒト」として扱うのが「法人」です。

 美術館などの「財団法人」で考えるとわかりやすいかもしれません。芸術や学術などの目的のために、誰かが寄付をしてまとまったお金があり、それで美術品を買う。その美術品の所有者はだれにしたらよいのか?でもそのお金を寄付したヒトは何人もいるかもしれないし、もう亡くなってしまっているかもしれない。そのとき、そのまとまったお金を法律上「ヒト」として扱うのが「財団法人」です。その法律上の「ヒト」が美術品を購入したり、契約したりすると見立ててしまうんです。「学校法人」は、教育活動それ自身を法律上のヒトとする。すると、その学校法人は土地を所有したり、人を雇ったりすることができます。

武田 なるほど。そうすると、企業というのは……。

岩井 利益を追求するような組織や活動を「ヒト」として扱うのが「企業法人」ですね。そもそも、歴史的に会社というのは、イタリアの貿易商人たちが海外と遠隔地貿易をするために船団を組んだ「カンパーニャ」、そして中世ヨーロッパの「都市自治体」などが原型だと言われています。では、この都市自治体が、土地を所有している領主から免税や自治の権利を付与してもらうときに、その契約を誰が結べばいいと思いますか?

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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