山田 「制約はイノベーションの母」と言われるように、課題こそがイノベーションの最大のドライバーとなります。そういう意味では、課題先進国ニッポンといわれるいまの状況は、世界で最もイノベーションが起きやすい環境にあるとも言えるのではないでしょうか。いずれ世界の課題ともなる日本の難問を解決するイノベーションによって創造されたビジネスは、そのまま世界の課題解決に寄与するビジネスとなり得るのです。

ワンステップで世界をめざす

冨山 ただ、日本企業がイノベーションをせっかく起こしても、それを世界に通用するモデルにできない。つまり、「標準化できない」のが日本の弱みでもある気がします。

山田 たとえば、われわれITの世界で言うと、決済関係のシステムですね。日本の決済システムは、世界に冠たる非常に進んだシステムだと思うのですが、それがなかなか世界標準化できていない。そうこうしているうちに、ほかの国にキャッチアップされ、気づいたらデファクトスタンダードを取られてしまうこともあります。このままでは、モノづくりだけでなく、あらゆる産業で日本がどんどんガラパゴス化してしまうのでは、という危機感を覚えます。冨山さんがおっしゃるとおり、日本人は本当に標準化が苦手なんだと思います。

冨山 これにはふたつの原因があります。ひとつは、「日本人は何でもツーステップで考えてしまう」ということです。まずは国内でしっかりと洗練したものを作って、それから海外展開――という感覚ではもはや世界のスピードに付いていけません。いまや日本のGDPは世界で8%しか占めていないのですから、「まずは日本で」という時間はないのです。国内→国外というツーステップはものすごく効率が悪い。初めから世界同時に発売する。初めから世界標準を取りに行く。日本人、日本企業は、そうした発想の転換が不可欠です。

山田 当社においても、まだ多くはありませんが、ワンステップで世界をめざす試みが始まっています。「PANADES(パナデス)」という航空機の飛行経路設計パッケージソフトです。この商品は、国際民間航空機関(ICAO)が定める国際基準に準拠し、初めから世界を狙って開発したシステムです。2010年の発売開始後、世界中から引き合いをいただき、タイやインドネシア、ベトナムなどでの導入も始まりました。急速な経済発展によって航空業界も急成長を遂げている新興国では、経験豊富な設計者の確保が難しいという課題を抱えています。これに着目したワンステップの戦略が、成功につながったのだと考えています。

冨山 少子高齢化により日本市場の縮小が危惧されていますが、その反面、国内市場が縮小するからこそ、ワンステップの世界展開がしやすくなるとも言えます。これまで日本は、1億人という豊富な内需がありました。一方、韓国や台湾、ヨーロッパの小国は、最初から自国にマーケットがないことを知っている。だから初めから世界をめざすんです。しかし、日本のマーケットも十分に小さくなってきた。だからこそ日本企業も、初めから世界をめざす時代に入ったと言えます。