企業家精神を当然とするには<br />イノベーションの機会に<br />注意を払わせる仕組みが必要ダイヤモンド社刊
2100円(税込)

「既存の企業において企業家精神を発揮させるには、それなりの方策がある」(ドラッカー名著集(5)『イノベーションと企業家精神』)

 マネジメントの目を機会に集中させなければならない。人は提示されたものは見るが、提示されないものは見逃す。

 そこでドラッカーは、効果が実証ずみの、企業家精神浸透のための方策を三つ教える。

 第1が、「機会」会議の開催である。ある医薬品メーカーでは、第二月曜と最終月曜の月2回経営会議を開いている。第2月曜の会議では問題を検討する。つまりごく普通の「問題」会議である。だが、最終月曜の「機会」会議では、目標を上回った分野や予期せぬ市場からの受注を取り上げる。

 このメーカーでは、自社の成功がこの「機会」会議のおかげだったとしている。しかし、実際にこの会議で取り上げた機会の一つひとつよりも、そこで培われた企業家的な姿勢のほうが、大きな意味を持っていたという。

 第2が、年2回の「成功」会議の開催である。このメーカーでは半年に一度、ラインのマネジメントを40~50人集め、2日がかりの戦略会議を開いている。特に、初日の午前中をかけて企業家的なイノベーションに成功した部門のマネジメントが、成功の顛末を報告し、今後の計画を発表する。

 ここでも、実際に会議でなされた報告そのものよりも、その戦略会議に参加した者の姿勢や価値観に与えた影響のほうが、大きな意味を持っていたという。もちろん、発表者自身の以降の動機づけに最大の効果があったという。

 第3が、トップマネジメント・チームのメンバーと、若手との定期会合の開催である。「今日は皆さんの考えをお聞きしたい。この会社のどこに大きなチャンスがあると思うか」。

 ただし、この会合で出す提案については一つだけルールを設けているという。提案した者は、案の実行を担当しなければならない。

「この種の会合からは、企業家的な成果が数多く生まれる。しかしそれらの成果は、会合から得られる最も重要なことではない。最も重要なことは、組織全体に企業家的なものの見方、イノベーションの重要性への認識、さらには新しいものへの貪欲さが浸透することである」(『イノベーションと企業家精神』)