中南米の成長力に関心を寄せる日本企業がここ数年急速に増加している。特に経済規模1位のブラジル、2位のメキシコの注目度は高い。両国は1970年代までに高度成長を経験し、80年代に所得水準上昇から生じる競争力低下という「中所得の罠」に陥り、一時マイナス成長になった。しかし、その後は、それぞれの政策で立ち直ってきた。ただし、成長戦略の方向性は180度異なっている。

 中間層の広がりを1カ月平均の乗用車販売台数から判断してみよう。昨年の千人当たり台数は、ブラジル1.6台、メキシコ0.7台だ。先進国は概ね3台以上なので、まだまだ伸びる余地があるが、両国の差は大きい。メキシコ政府は多くの国・地域と自由貿易協定を結び、海外企業の工場を多数誘致してきた。しかし、その戦略は低賃金が前提だ。政府は賃上げにあまり熱心ではない。しかも不思議とメキシコの労働組合は穏健で、過激な賃上げ闘争をしない。その結果、消費の成長は遅いままだ。

 対照的にブラジル政府は、雇用増加のために、輸入工業品に高い関税をかけ、国内工場(外資系も含む)を保護してきた。また、最低賃金は毎年2桁のペースで引き上げられてきた。そういった政策が消費を急拡大させてきたが、副作用として、人件費高騰を含む激しい高コスト体質が生じている。同国の工場から海外に輸出するというモデルは今はあり得ない。