その1カ月後、彼は「I'm sorry」という置手紙を残して逃走し、フランクフルトで逮捕されることになります。
 当時彼は一人で、ノーショナル(想定元本)で約3,500億円分の日経に相当するコール、約3,000億円分に相当するプットをショートしていました。
 ノーショナル(Notional)とは、オプションがどの程度の額の原資産に及ぶのかを表したものです。
 日経オプションの場合、マルティプライアが1,000ですから、日経平均が10,000円の時、1つのオプションのノーショナルは

 10,000×1,000=10,000,000円

 となります。

 そしてオプションに加えて約7,000億円分の日経先物をロングしていました。また他にも、日本国債先物やユーロ円先物を大量にショートしていたことが分かっています。

 当時の状況は、リーソン本人が記した著作や映画『Rogue Trader』に記されています。
 劇中に、リーソンが友人たちと女性に向かってお尻を見せたことで警察に逮捕されるシーンがあるのですが、まさにその場にいたリーソンの親友と会って話をしたことがあります。
 彼も当時Simexで働いていたのですが、彼によると、リーソンは自身の大量のショートストラドルによって、3カ月物の日経のインプライドボラティリティを14%から8%にまで押し下げたそうです。

 日経のオプションをトレードしたことのある方なら、これがどれほど異常な値かお分かりになると思います。

(次回は、4月5日に掲載します)


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目次

1章  オプションとは
2章  プットコールパリティ
3章  オプション価格はどう決まるか
4章  オプション価格計算モデル
5章  ボラティリティとは
6章  ボラティリティサーフィス
7章  スプレッドとは
8章  グリーク
9章  グリークの視点からのスプレッド
10章  コールとプットの等価性
11章  オプションアービトラージ
12章  アメリカン型オプションの早期行使
13章  トレーダーの視点
14章  VIXとは
用語集
正規分布表
索引