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3月25日 18時0分
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キプロス問題の示唆 - 広木隆「ストラテジーレポート」

筆者は、「欧州債務危機」は茶番劇であると言い続けてきた。誤解のないように断っておくと、欧州を含め国家の債務問題は筆者の最大の関心事であり、この問題に大きな危惧を抱いている。債務問題に対する現在の各国政府の対応は先送りをしているに過ぎず、いずれ抜本的な取り組みが必要となることは言をまたない。世界経済は100年に一度と言われたリーマン危機を乗り越えたかに見える。しかし、危機は繰り返し起こるだろう。次の大きな衝撃は、国家の債務問題がその引き金となるのではないかと懸念している。

そんなことを言うと、読者の中には日本の政府債務のことを思い浮かべる方もおられよう。「日本は国の借金がGDPの2倍もある世界最悪の財政状態だからいつか国が破綻して、国債は大暴落、ハイパーインフレが起こる」といったような世迷言を述べるつもりはまったくない。それは「週刊○スト」や「東京○ポーツ」の世界のお話である。「東○ポ」と同次元ということは、「人面魚、重体」とか「宇宙人の化石発見」と同じレベルの話だということである。

国家の債務問題については、フィリップ・コガン著『紙の約束 - マネー、債務、世界新秩序』という非常に優れた書籍が先日刊行された。金融危機の歴史を膨大なデータで検証した名著、カーメン・ラインハートとケネス・ロゴフの『国家は破綻する』と併読するとより一層この問題についての理解が深まるのでお勧めしたい。(ちなみに『紙の約束』の方が『国家は破綻する』よりはるかに読みやすい。どちらか一冊なら『紙の約束』の方がお勧めだ。)そして、国家債務問題については、それらの書籍からの示唆、指摘なども踏まえてあらためて語る機会を持ちたいと考える。今回は、キプロス、そして欧州債務危機について所見を述べる。

「欧州債務危機」が茶番劇であるというのは、第一に、「欧州債務危機」と「」(鍵括弧)で括って表現したように、本当の危機ではないからである。では何かと言うと、それはただの投機である。投機は日常茶飯事、いたるところで起きる。「危機」という状況にはほど遠い。まず、実態を正しく表していないという表現の問題を指摘できる。次はその深刻度。まったく深刻ではない。例えば、ECB(欧州中央銀行)が「投機は止めなさい」というとあっけなく南欧国債の売りが止んだ事実ひとつとっても、いかにたいしたことでないかが分かるというものだ。ECBが打ち出したLTRO(期間3年の流動性供給オペ)やOMT(国債買い入れプログラム)は、ECBが投機筋に対して「投機は止めろ」というメッセージを出したものである。投機とは所詮、カネを多く使ったほうが勝つ。ECBが「無制限」と言った時点で勝負はついたのである。

それでも「欧州の問題は完全に解決されていない」というコメントをよく目にする。それはそうだろう。完全な解決など今世紀中には無理である。ユーロが発足当時から内在する問題、すなわち「通貨はひとつ、国家(財政)はばらばら」という矛盾は残り続ける。ESMという安全網が始動したり、銀行同盟発足に向けた取り組みも評価はできる。しかし、欧州が国家レベルでひとつになる日は気が遠くなるほど先のことだろう。「通貨はひとつ、国家(財政)はばらばら」という、根っこのところの問題はずっと変わらない。

投機筋が突くのは、結局、その点である。あるいは、もっと表層的で分かりやすいイタリアの債務残高の多さやスペインの財政赤字の大きさなどである。しかし、ユーロの構造問題や、イタリア、スペインの債務問題というものは、どう考えても一朝一夕に解決するような問題ではない。状況が改善したり悪化したりはするものの、それは「緩やかに」であってすぐには変わらない。極論すると、危機が起こる前と起きた後で、そんなに違いはなく、何か変化があったのかと言えば、ずっと悪いままである。状況は変わっていないのに、市場が自分の都合で何かしらの「攻撃材料」を作り出しては売りを浴びせる。それが「欧州債務危機」というものの本質である。

であるから、この「欧州債務危機」というやつに本当の終りはない。折に触れて何度も蒸し返されるだろう。しかし、市場はECBによる無制限資金供給でこの「危機」は封じ込められるということを学んだ。処方箋さえはっきりしていれば恐怖はない。市場の恐怖感を利用できないとすれば、売り方の威力は相当程度削がれている。よって、それはもう「危機」にはなり得ず、多少なりとも市場を掻き乱す波乱要因となる程度のものだろう。ポイントは、ユーロの構造問題や国家の債務という非常に重厚で時間のかかる大きな問題の行方と、気まぐれな市場の投機行動を同一視してはいけないということである。
さて、キプロスである。本日朝、ロイター通信が「キプロスのアナスタシアディス大統領と欧州連合(EU)は、キプロス支援策の大枠案で合意した」と報じた。大枠案には「グッドバンク」と「バッドバンク」の創設や、国内2位の銀行を閉鎖することが盛り込まれているという。まだ多少の紆余曲折は残ろうが、今回のドタバタ騒ぎもとりあえず収束に向かいそうな気配である。

ギリシャの11分の1という経済規模の小国キプロスの金融危機が、これほど世界の市場を揺るがしたのは、ロシアとの結びつきやマネーロンダリングの温床となっていた特殊性もあるが、なんといってもユーロ圏が支援の条件に預金課税という「禁じ手」を持ち出したことによる。

先のロイター電によれば、キプロス・ポピュラー銀行の小口預金(10万ユーロ未満)をバンク・オブ・キプロスに移管し、「グッドバンク」を創設する一方、預金保険対象外の大口預金(10万ユーロ超)には多額の課税が適用され、キプロス・ポピュラー銀行はその後、事実上閉鎖されるという。

いろいろ論議を呼びそうだが、筆者は極めて妥当なプランだと思う。なぜなら、この措置は、金融破綻した国の購買力は減価する、という極めて当たり前の事象を現出させることになるからだ。ユーロに加盟している以上、キプロスという国が破綻しても、貨幣価値の減少をもってキプロス国民の購買力が減るわけではない。価格(ユーロ)は変わらず、量(預金額)が減ることで購買力が低下するのである。それが破綻に伴うペナルティだ。預金保険対象外の大口預金に課せられる税率がどれほどになるかは定かではないが、ユーロを離脱するよりましだと思われる。ユーロを離脱して、もとのキプロス・ポンドに戻した瞬間に、キプロス・ポンドは暴落するだろう。名目上の預金額は減らなくとも、今度は通貨価値の(恐らく大幅な)棄損によって、預金者の購買力が目減りすることに変わりはない。

先日、日本を訪れる外国人が増えているという記事が新聞に載った。日本政府観光局が21日発表した2月の訪日外国人客数は前年同月比3割強伸びたという。円安・株高を背景に欧米のビジネス客や東南アジアの観光客が増加、都内では外資系ホテルの稼働率が改善し、観光名所でも外国人客の姿が目立ち始めたと記事は伝える。

もし、キプロスがユーロを離脱し、もとの通貨が暴落したら、その通貨安で観光客が増えるかもしれない。キプロスの主力産業は観光業だから通貨安の恩恵を受けると思ったら甘い考えである。日本の場合は通貨安でも国内物価がすぐに上昇するわけではないので、旅行者は円安メリットを享受できる。ところが小さな島国であるキプロスは、食糧から資源、エネルギーなどほぼ自給できないからすべて輸入に頼る。通貨安は即、輸入物価の高騰を招いて国内のあらゆるものの価格が上がるだろう。キプロスを訪れる旅行者は、おそらく自分たちの国で食べるより何倍も高いサラダを供されることになるに違いない。それ以前に、ハイパーインフレと資金流出、場合によっては人も離散し、治安が極端に悪化するだろう。そんな国を観光で訪れるひとはいまい。

そのくらいのことはキプロスのひとも容易に想像がつく。ギリシャがなんだかんだいっても、最終的には緊縮を受け入れ、ユーロ圏にとどまっていることも参考になるだろう。

今回の騒動がギリシャ情勢にとってもプラスに働くことを期待したい。キプロスが、預金を大幅にカットされてもEUの支援を仰ぎ、ユーロ圏にとどまる選択をするなら、ギリシャのひとびとはこう思うはずだ。俺たちは恵まれている、と。ユーロから出ていくならばハイパーインフレで通貨価値は減価する。それよりは、ユーロに残ることができて、かつキプロスのように預金も減らされないのならば、それは「いいとこどり」だと分かるだろう。これでギリシャ国民がおとなしくなって粛々と緊縮に励めば、キプロスでもめたことも、ユーロにとって収穫があったというものだが果たしてどうだろうか。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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