私たちは、いつまで
「目標の奴隷」のままなのか?

 筆者は、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏と一緒に開発した「知識創造調査ナレッジ・オーディット」というツールを用いて、さまざまな企業について観察・診断してきました。

 その診断結果には、おしなべて「知の階層化」というゆゆしき症状が見られます。言うまでもなく、組織メンバーの知ナレッジが縦横無尽に行き交うのが理想ですが、実際には、むしろ停滞し、よどみとなって階層化しているのです。

 そのせいで、たとえば、みんな決められたことだけを粛々とこなす、組織の縦割り化やタコツボ化が起こっている、クロス・ファンクショナル(職能横断)・チームをつくってもうまく機能しない、改革や新規事業はとん挫する、イノベーションが生まれてこない、といったことが常態化しています。

 多くの人が、心のどこかで一生懸命になれることを待ち望んでいながらも、「あがいたところで何も変わらない」「ドン・キホーテにはなりたくない」「子どものため、住宅ローンのため」などと自分に言い聞かせて、上から降ってきた目標に従い、目の前の仕事をこなしています。

 目標は、多くの場合、数値など比較・測定できるものであり、どれくらい達成できたか(あるいは達成できなかったか)で評価されます。ドラッカーも、「目標を設定」し(そして目標の意味を理解させ)、「業績を評価する」ことがマネジャーの仕事であると述べています。

 しかし、同時にマネジメントは「組織の特定の目的や使命を達成する(中略)、社会的影響と社会的責任を管理する」ことであり、そのために「MBO(目標管理)と自制(セルフコントロール)」が必要であると語っていることを、併せて考えるべきです。したがって、目標は目的ではなく、むしろ目的を実現するための手段であり、マイルストーンととらえるべきでしょう。

 結局のところ、いざなみ景気のさなかも、それが終わった後も、そして残念ながら現在も、日本経済には活気が戻ってきません。このまま出口の見えないトンネルがずっと続くのでしょうか。また、引き続き「目標の奴隷」を強いられるのでしょうか。

(次回は4月1日更新予定です。)


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目的と目標は似て非なるものである。<br />あなたは「目標の奴隷」になっていないか?<br />――本文から(その2)

アインシュタインも語った――「手段はすべてそろっているが、目的は混乱している、というのが現代の特徴のようだ」
利益や売上げのことばかり考えているリーダー、自分の会社のことしか考えていないリーダーは、ブラック企業の経営者と変わらない。英『エコノミスト』誌では、2013年のビジネス・トレンド・ベスト10の一つに「利益から目的(“From Profit to Purpose”)の時代である」というメッセージを掲げている。会社の究極の目的とは何か?――本書では、この単純で深遠な問いを「目的工学」をキーワードに掘り下げる。

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紺野 登(Noboru Konno)
多摩大学大学院教授、ならびにKIRO(知識イノベーション研究所)代表。京都工芸繊維大学新世代オフィス研究センター(NEO)特任教授、東京大学i.schoolエグゼクティブ・フェロー。その他大手設計事務所のアドバイザーなどをつとめる。早稲田大学理工学部建築学科卒業。博士(経営情報学)。
組織や社会の知識生態学(ナレッジエコロジー)をテーマに、リーダーシップ教育、組織変革、研究所などのワークプレイス・デザイン、都市開発プロジェクトなどの実務にかかわる。
著書に『ビジネスのためのデザイン思考』(東洋経済新報社)、『知識デザイン企業』(日本経済新聞出版社)など、また野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授)との共著に『知力経営』(日本経済新聞社、フィナンシャルタイムズ+ブーズアレンハミルトン グローバルビジネスブック、ベストビジネスブック大賞)、『知識創造の方法論』『知識創造経営のプリンシプル』(東洋経済新報社)、『知識経営のすすめ』(ちくま新書)、『美徳の経営』(NTT出版)がある。

目的工学研究所(Purpose Engineering Laboratory)
経営やビジネスにおける「目的」の再発見、「目的に基づく経営」(management on purpose)、「目的(群)の経営」(management of purposes)について、オープンに考えるバーチャルな非営利研究機関。
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