経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第27回】 2013年4月2日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【岩井克人氏×武田隆氏対談】(中編)
すべての企業が生まれ持つ「あやうさ」の正体とは?

会社のオーナーたる株主が、株価を上げるために経営者を一生懸命働かせるにはどうすればよいか?その方法のひとつとして考え出されたしくみが「ストックオプション」。要するに「経営者も株主にしてしまえば、株価の最大化に邁進するだろう」という発想だ。だが、2001年のエンロン事件からも明らかになったように、ストックオプション制度には根本的な見落としがあった。「倫理性への配慮」から経営者を解放してしまったという点だ。
では、経営者とはいったいどのような存在なのか。「経営者とは、人形浄瑠璃の人形遣いのような存在です」と意外なたとえを持ち出した岩井先生、その意味するところとは……?

ストックオプション制度で、人がよく働くとは限らない

武田前回は、ヒトでもあり、モノでもあるという「法人」の、その精巧で不思議な両義性をテーマにしました。

岩井克人(いわい・かつひと)
国際基督教大学客員教授。1947年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。マサチューセッツ工科大学Ph.D.イェール大学助教授、東京大学経済学部教授などを経て、現在は東京大学名誉教授、東京財団上席研究員、武蔵野大学客員教授も務める。”Disequilibrium Dynamics”にて日経経済図書文化賞特賞、『貨幣論』にてサントリー学芸賞、『会社はこれからどうなるのか』にて小林秀雄賞受賞、ほか著書多数。

岩井 では、その応用問題として、今回は「経営者」とはなにか?について深掘りしてみるというのはどうでしょう?

武田 よろしくお願いします。

岩井 アメリカ型の会社理論では、株主が会社のオーナーであり、その株主と契約を結び、その代理人として行動する存在が経営者です。

武田 それが、“企業とは「契約の束」である”という、ロナルド・H・コース(アメリカの経済学者。1991年にノーベル経済学賞を受賞した)流の考え方につながるわけですね。

岩井 はい。契約というのは本来、互いの利益のために、自由に結ぶことができるものです。結果が良ければ利益になり、悪ければ自己責任。それでは、オーナーである株主が、株価を上げるために経営者を一生懸命働かせるにはどうすればいいか。その方法のひとつが、ストックオプション(将来の決められた日時にあらかじめ決められた金額で会社から株式を購入する権利)だったんです。

武田 経営者も株主にしてしまえば、株価を最大化するだろうと考えたんですね。

岩井 はい、そうです。そういうインセンティブを与えて、経営者が自己利益を追求すると、株主の利益にもなる状況をつくろうとしたんです。それで1960年以降、アメリカではストックオプションで報酬を支払う会社が急速に増えました。でもこれは、根本的に間違っています。

武田 日本でも、1997年に導入されてからストックオプションが広まりました。

岩井 2001年のエンロン事件では、不正が発覚する前に経営者は自社株オプションを売り逃げて巨額の利益を得ました。そして、粉飾された利益情報を信じていた多くの株主は、大損をしたわけです。特にかわいそうだったのは、年金を会社の株で運用していた従業員でした。職だけでなく、年金も失ってしまった。

 経営者を株主の代理人とみなし、自己利益を追求させるというインセンティブを与えることで、倫理性への配慮から解放してしまったこと。ここが間違っているポイントだと私は考えています。

武田 経営者を株主にして株価を最大化させる、という方法が必ずしも株主の利益になるわけではないということが確認されたわけですね。

岩井 はい。そもそも経営者は、株主と代理契約を結んだ代理人ではありません。会社と経営者の間の契約は、必然的に「自己契約」になってしまうからです。自己契約とは、元旦の断酒や節酒の誓いと同じで、なんの強制力もありません。それは、経営者が倫理観をなくしたら、なんでもできてしまう。経営者とは、実は、会社のために会社に代わって意思表示や行動をする、会社の「代表機関」であるのです。

武田 経営者が自分の“倫理ストッパー”を外してしまったら、「まったく働かなくても年間3億円の報酬をもらう」というように、自分に都合のよい自己契約ができてしまうというわけですね。

岩井 はい(笑)。たとえば、株式会社エイベック研究所とその代表の武田隆さん個人との契約は、代表者である武田さん自身がサインすることになります。自分に都合のいいことをいくらでも書き入れられる。つまり、「契約」そのものが成り立たない構造なんです。ここに株式会社の脆弱で魅力的な本質が表れます。

 経営者とは本来、観念的な存在でしかない法人を、ヒトのように現実社会の中で振る舞わせる存在なのです。たとえるならば人形浄瑠璃における人形遣いのような存在なんです。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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