やりたいことがあるなら、やったほうがいい

やりたいことは<br />簡単に見つからない<br />【小倉広×木暮太一×ジョン・キム】(中編)

木暮 話を聞いていて思い出したんですが、僕は富士フイルムのあと、サイバーエージェントに行って、そこで出版の子会社を任されたんですね。出版事業をつくるといって。サイバーエージェントはインターネットの会社なんですが、インターネットの会社が出版部門をつくるということで、出版経験者を募集する、みたいな。紙のこととか、出版に関して知ってる人がいなかったんですよ。

 僕が大学生のときに出版ごっこみたいなことをちょっとやっていたので、社長の藤田さんに目をつけてもらって、じゃあやるか、ということになったんですが、実は決め手はそこじゃなくて、僕がサイバーエージェントの中で一番業務処理能力が高かったからというふうに藤田さんに言われたんです、そのあとで。

 富士フイルムとサイバーエージェントとリクルートというと、一番仕事が緩そうなのは富士フイルムってみなさん、思うかなと思うんですけど、実は一番ハードワークは富士フイルムでした。膨大な業務を与えられて、お手玉状態で一生懸命四苦八苦しながら業務を進めていく。二年半、そういう状態ですべて滞りなく問題なく進めていくという業務遂行能力を身につけたんです。

 その能力をサイバーエージェントに転職したあとに社長の藤田さんに認めてもらって、子会社の事業責任者というか、現場担当者を任せると言われた。そのときに出版のことを勉強して、出版のことがわかったので、本をちゃんと書けるようになって、いろんな応援してくれる人がすごく増えて、売れて、今はこうやって出版業界で生きているんです。

 なので、まさに小倉さんがおっしゃるとおりで、あのときの富士フイルムの仕事って、正直、好きじゃなかったんです。本当に好きじゃなかった。ですけど、そこで本当に一生懸命やったというか、一生懸命やらざるを得なかったんです。あまり前向きじゃなかったんですが、一生懸命やらざるを得ない環境にあって、その中で能力が身についていったのが、あとあと、すべてつながっていたんだなと。 

キム 人間の成長には限界がないと思います。自分が心の底から願うものであれば、それに向けて走り出せば良いと思います。自分の人生の決断においては他者の承認は要らないのです。確率計算も二の次で良い。重要なのは自分が心から求めているのかどうか、なのです。やって失敗したことによる後悔は、学びや成長の材料にするなどして解消出来ますが、やらなかったことによる後悔はなかなか消えないものです。

 人間の能力に先天性があるかも知れませんが、たとえ、先天的な能力の差はあったとしても、自分の後天的な努力によって成長の角度や突き進む速度を高めていけば、先天的に能力のある人を追い越すことは理論的には十分可能なわけです。

 一方で、さきほどやりがいの話があったと思うんですが、それは短期的なものと中長期的なものに分けた方が良いと思います。短期的には今の状況を前提にした上で自分がやるべきことに対して愛着を持てるように最善を尽くしていくことが大事だと思います。

 ただ、中長期的には状況自体を理想的なものに変えていくことが重要です。例えば、「やりたいこと」と「稼ぐこと」が乖離した状況から両者を同じ方向に持っていける状況を自ら作り出していく感覚です。

木暮 状況自体を理想的なものに変えていくというのは?

キム 例えば多くの人は、やりたいことをやるとそれがお金にならないケースがありますよね。お金になることをやるんだけど、それはやりたいことではなかったということもあるでしょうし、お金はいっぱいあるんだけど、やりたいこともあるんだけど、時間がないということもあると思うんです。なのでその三つが代替的なトレードオフではなく、互換的に築き上げられていくことが僕は中長期的な目標だと思うんです。

 だって人間、だれしも自分が一番やりたいことをやりたい場所でやりたいときにやりたいわけじゃないですか。それを実現していくためには、自分の中で最初はやるべきことをこなしながら実力をつけていって、自分がやりたいことをちゃんとお金になるように設計をした上で、やれるような時間を確保していくということが、中長期的な目標ではないかと。

木暮 能力を特に考える必要はなく、やりたいビジョンを明確にして、そこに突き進めばいい、と。