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【新連載】「ムーアの法則」に迫る経済的限界
――プロセッサ動向から読む、スマートフォン市場競争の行方

佐藤一郎 [国立情報学研究所・教授]
【第1回】 2013年4月9日
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 最新の高性能スマートフォンに搭載されるプロセッサの最小注文単位はどれくらいかご存知ですか?

 おそらく1000万枚ぐらいでしょうか。100万枚で製造を請けてくれるところはないでしょう。

 プロセッサは半導体の集積回路として作られますが、集積回路の最小加工寸法のことをプロセス(またはプロセスルール)と呼びます。このプロセスが細かいほど集積度が上がりますし、集積回路の駆動速度も早くなりますし、駆動電圧も小さくなります。スマートフォンの場合、プロセスが細かくなれば機能が増えるし、動作性能も良くなるし、電池持ちも良くなります。だから、スマートフォンメーカはなるべく細かいプロセスのプロセッサを搭載したいことになります。

工場ひとつで1兆円

 いまのスマートフォン向けプロセッサのプロセスは32nm幅が主流です。iPhone 5に搭載されているApple A6も32nmとされます。今年は28nmプロセスに移行していくでしょう。問題は28nmや32nmのプロセスの半導体回路を製造できる工場の設備投資額が上がっているのです。以下、金額などは業界的にささやかれている相場観なので、だいたいの数字と思って読んでください。

 さて32nmプロセス向け工場は5000億円以上。28nmプロセスに至っては1兆円近いといわれます。例えば半導体は回路を表す写真乾板から、写真の焼き回しのようにシリコンに転写しますが、この転写装置、正しくは半導体露光装置と呼びますが、20nmクラスになると1台で100億円程度。桁違いの費用がかかるのです。だから枚数を作らないと半導体工場はペイしませんし、特に製造する半導体回路の切り替えはコストがかかるので、一つの半導体回路、つまり一つのプロセッサをたくさんつくる必要があります。

 さてAndroidでもiPhoneでも英ARM社の設計をベースとしたARM系のプロセッサを搭載しています。そのARM系プロセッサを設計する会社は半導体工場は持ちませんから、TSMCなどのファウンドリ、つまり半導体製造を請け負う会社にプロセッサの生産を委託します。ファウンドリとしては工場の設備投資に見合う受注量というと、これも業界における相場観ですが、月産100万枚近い生産が必要ですし、生産委託を受けるにしても一回の注文で1000万枚以上でないと請けられないでしょう。

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佐藤一郎[国立情報学研究所・教授]

国立情報学研究所アーキテクチャ科学系教授。1991年慶応義塾大学理工学部電気工学科卒業。1996年同大学大学院理工学研究科計算機科学専攻後期博士課程修了。博士(工学)。1996年お茶の水女子大学理学部情報学科助手、1998年同大助教授、2001年国立情報学研究所助教授、を経て、2006年から現職。また、総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻教授を兼任。
専門は分散システム、プログラミング言語、ネットワーク。


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分散システムの研究を核としつつ、ユビキタス、ID、クラウド、ビッグデータといった進行形のテーマに対しても、国内外で精力的に発言を行っている気鋭のコンピュータ・サイエンス研究者が、社会、経済、テクノロジーの気になる動向について、日々の思索を綴る。

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