衆議院の解散・総選挙が近づく中、さもありなんの事態だが、コメの減反政策見直しを目指した石破農林水産大臣の農政改革が身内の自民党の反対でほぼ潰されかけている。筆者が見聞きした情報を元に推測すれば、麻生総理はおそらく石破案を採用して政権の売りとしたかったが、党内の農林族から「そんなことをしたら選挙で負けるぞ」と言われ、返す言葉がなかったのだろう。

 守旧派の巻き返しの激しさを物語るのは、減反選択制すら自民党の政策論議から事実上消えてしまったことだ。むろん前々回のコラムで述べたとおり、コメの減反(生産調整)に参加するかどうかは個々の農家の判断に任せ、参加する農家のみに米価の低下分を補助金で補填するというこの方法では、結局は財政支出で零細な兼業農家に現在の米価の水準を保証してしまうことにつながるので、構造改革にはつながらない。

 しかし、減反に参加しない人が出てくるので、米価はある程度下がり、消費者の負担が軽減されるのは事実だ。WTO交渉も、完全減反制を念頭に置いた価格維持政策に拘泥しているときに比べれば、進めやすくなる。農政改革に向けた意欲を示す上では、必要最低限の“アドバルーン(広告気球)”ではあったはずだ。結局、それすらぶち上げることができなかったということは、現在の自民党の元での農政改革がほぼ「見果てぬ夢」であることを示したに等しい。20年ほど前に時計の針を戻す自民党の「農政復古」である。

 振り返れば、減反政策の問題点に言及した政治家は石破大臣が初めてではない。古くは、食糧管理制度があったとき、当時の渡辺美智雄農水大臣が、米価を上げながら減反をするというのは「クーラーとストーブを一緒にするようなものだ」と発言した。つまり、食管制度時代の全量政府買い入れという仕組みがある中で米価を上げると生産が刺激され、政府に過剰在庫が溜まり膨大な財政負担をして処理せざるをえなくなる、そのために減反をせざるを得ない、しかし、本来生産刺激と生産制限という矛盾した政策だという趣旨の発言である。

 また昨年5月31日には当時の町村官房長官が、「世界で食料不足の国があるのに減反しているのはもったいない。減反政策を見直せば、世界の食糧価格高騰に貢献できるのではないか」と発言している。要するに、過去にも、そして今なお、自民党内にも、減反政策の問題点を認識している議員はたくさんいるのである。

 それでも減反見直しがかくも難しいのはなぜか。