
1997年5月、名古屋ゴルフ倶楽部和合コースで開かれていた「中日クラウンズ」は、3日目を終えて、ノーマンと尾崎将司が首位に並んでいた。
翌最終日の2番ホール、ティーショットをラフに打ち込んだ尾崎は、ドライバーを持ったままセカンドショット地点まで歩いていった。尾崎は、そこでいつもそうするように、ボールの後ろの芝生をドライバーで押さえつけると、クラブをアイアンに持ち替えてショットを打ったのだ。彼は、前日までも同じような行為を繰り返していた。いやそれは長年にわたる彼特有の「習慣」でさえあった。
だが、日本のゴルフ界は、人気者であった彼のそうした「習慣」を見逃し続けていた。協会も、主催者も、同伴競技者も、そしてゴルフジャーナリストたちも、ビジネスと組織の圧力に自ら屈し、“日本の王者”のわがままを放置してきたのだ。
ノーマンは違った。競技委員を呼ぶと、尾崎の行為は「ライの改善」に該当する可能性があるという指摘を行ったのだ。“世界最強”で、かつ当時の“世界最良のゴルファー”からの指摘はまったくもって妥当なものであった。
世界共通のゴルフルールブックには次のような記述がある。
〈13‐1 通 則
規則に別の規定がある場合を除き、球はあるがままの状態でプレーされなければならない。
13‐2 球のライや、意図するスタンス・スイングの区域、プレーの線の改善。
プレーヤーは自分の、球の位置やライ、意図するスタンスやスイングの区域、プレーの線や、その延長でホールを越えてその先方の、若干の合理的な長さの部分、または、球をドロップしたりプレースする場所を次の行為によって自分で改善したり、改善されるのを許してはならない。
・クラブを地面に押し付けること〉
http://www.jga.or.jp/jga/html/rules/rulebook/index.html
ルールに従えば、論を俟たない。