福島への絵画貸し出し拒否
Twitterでつづった激しい怒り

開沼 そこから「詩の礫」が始まるわけですね。

和合 震災直後の3月16日から、今年の2月まで書き続けてきました。ただ、2011年5月25日でTwitterは一度止まりました。その後、予想に反してものすごく忙しくなってしまったので。開沼さんもまったく同じではありませんか?

開沼 わかります。震災や原発事故の新情報が日々更新され続ける状態でしたが、それが少しずつ落ち着いてきた頃から急速に忙しくなってきました。

和合 Twitterに詩を書くことができなくなってしまいましたが、震災前までは経験したことないくらいたくさんの方に読んでもらうことができました。詩や論文って基本的に読まれないじゃないですか?多くの人にTwitterを通して読んでもらうことで、「詩のクオリティがきちんとしていなければ、むしろ自分から風化を招くんじゃないか」という恐れが生まれたんです。それで踏み出せなかったですね。

開沼 しかし、震災から2年のタイミングで『詩の礫 起承転転』(徳間書店)を刊行されているように、和合さんはそこから「踏み出し」ています。そのまま書かないという道もあり得るなかで、何か再開のきっかけがあったんですか?

和合 きっかけは2012年2月の朝日新聞の記事です。ベン・シャーンの絵が福島だけ貸し出し禁止になったことが書かれていました。僕は、前年の12月、葉山でベン・シャーンの絵を見て詩を書くというワークショップを開催しています。僕はベン・シャーンの絵の雰囲気が福島の人にとってものすごく重要だと思うんですよ。彼の絵はウソをつかない風刺の雰囲気を持っています。そのなかでも、戦場で瓦礫になった街で遊んでいる子どもの絵はそうです。ベン・シャーンが書いたものを福島の人に見せるべきだと思いました。

開沼 なるほど。

和合 開沼さんも同じかもしれないけど、「詩の礫」でありのままに書いていくことについて、僕自身も悩んだんですよ。でも、みんなが「そのまま書いてくれてありがとう」と言ってくれました。その都度、励まされてきたんです。

 だからこそ、ありのままに書かれているベン・シャーンの絵を福島の人に見せることは重要だと思いました。そうしたら、アメリカの美術館が福島だという理由だけで貸し出し拒否。それを見てものすごく腹が立ちましたね。朝、それを見た瞬間に、久しぶりにTwitterに怒りの詩を書いたんです。

開沼 『詩の礫 起承転転』にも詳細な記述がありますね。非常に印象的でした。

和合 「ベン・シャーンよ、あなたは、何を想う。あなたの手がけた絵が、福島に届けられないのだ。私は悔しい。ベン・シャーンよ。あなたは、何を想う。私は、悔しい。」から始まります。朝からずっとtweetしたんです。そしたら、すごい数のRetweetがきて。それまで「詩の礫」を続けようか迷っていましたが、本気で怒りがやってきたら何も考えずにやっちゃうんだなって自分で気がつきました。そこからまた始めるきっかけをもらったという感じですね。

開沼 『起承転転』に収められた作品が始まっていくんですね。

和合 前作に対して、今回の『起承転転』にはいろんな迷いが書かれています。担当編集者は優しい人なので「起伏に富んだ内容ですね」と言ってくれたんですけど、いろいろな迷いと祈りを込めているんです。だから1冊の中は、いろんな書き方になっています。

震災を機に、Twitterという表現の場で言葉を紡ぎ始めた和合氏は、「詩の礫」を通して何を伝えたかったのか。次回更新は、4月22日(月)を予定。


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