いま、クラスに1人は体外受精で生まれる

 世の中には体外受精に対し抵抗のある人もいます。
 なかには「異常な子が生まれてくるんじゃないですか」「学習能力の低い子にはなりませんか」「運動能力が劣ってしまうのではありませんか」と心配する人がいます。

 ですが現在、約40人に1人が体外受精で生まれてきます。日本で生まれる子どもの数は年間約107万人ですが、そのうち体外受精で生まれてくる子は年間約2万5000人もいます。すでに世の中に定着し、体外受精で生まれても問題が起きることはまずないとわかっています。世界的に見ると、これまでに約400万人~500万人が体外受精で生まれているのです。

 ちなみに、かつては体外受精で双子やそれ以上の三つ子がしばしば生まれていました。妊娠の確率が上がるよう、子宮に複数の受精卵を戻していたからです。
 しかし双子の場合、妊婦さんに妊娠高血圧症候群のリスクや流早産のリスクが高まり、帝王切開のリスクも高くなります。同時に、胎児にとっても胎盤位置の異常や臍帯付着部の異常、子宮内での発育の遅れが出やすくなります。また、分娩時には胎児同士がひっかかったり、ぶつかったりして出てこれないリスクがあります。
 ですから日本では、子宮に戻す受精卵は原則1個だけというガイドラインになっています。

体外受精にかかるお金と、意外な受精卵の「その後」

 体外受精の費用は、採卵から凍結させるまでに30万円~60万円程度、子宮に戻すときに10万円~20万円程度かかります。健康保険は適用されませんが、自治体によっては補助の出るところがあります。

 さらに受精卵の管理費が年間1万円~5万円ほどかかります。それは、受精卵が、一般的にかなりの長期間、病院で保存されることになるからです。

 多くの患者さんの受精卵を液体窒素で凍結していくと、次第に数が増えていき、保管場所が不足していきます。受精卵は複数できるので、妊娠成功後にも残ることがあります。

 現在、日本産婦人科学会では受精卵の凍結保存期間について、「被実施者夫婦の婚姻の継続期間であって、かつ卵子を採取した女性の生殖年齢を超えないこと」としています。しかし、出産後、どこかに引っ越してしまって連絡がつかなくなっている人もおり、実際にはこの条件を満たさなくなっても、受精卵は廃棄せず、液体窒素に入れてそのまま保管することが多いです。

 日本は凍結の技術が進んでいるうえ、これからさらに体外受精が普及していくと、ますます保管場所の問題が出てくるでしょう。
 保管方法の問題もあります。東日本大震災の際、東北地方の不妊クリニックで受精卵を保管していたタンクが破損してしまい、訴訟になりそうだったケースがありました。そうしたことも含めて、受精卵をどう管理していくのかが、不妊治療の業界では話題になっています。