私は年におよそ5000人の前で講演していますが、原稿を持っていくことはありません。聞いている人たちの反応を見ながら、その都度内容を変えています。私の場合、相手が企業人のときもあれば、大学生や高校生、教育者と多岐にわたっています。

 その講演でリアクションが良かった部分はより深掘りしたり、食いつきが今ひとつだったらすぐに話題を変えたりと、いつも聞き手のみなさんと対話することに気を配っています。

 このスタイルは、以前私が一緒に仕事をしたEMCのCEO、マイケル・ラトガースを参考にしました。彼も事前に話す内容は決めずに、聞いている人の反応を見ながら話す内容も自由自在に変えていました。

 それが見事にツボにハマって、どこでも大きな感動を生んでいたのです。いつでもどこでも同じ話をする、俳優でもあるスティーブとはまったく正反対でしたが、二人とも感動を与えるプレゼンの妙手であることは間違いありません。

 別に感動を与えるプレゼンをしなくても……と思う人もいるかもしれませんが、コミュニケーションには感動が必須なのです。どれだけ話し方のテクニックを身につけても、相手を感動させる覚悟がない限り、本気度はいつまでも伝わりません。

 これからの世界を生きる人は、ぜひ「話す」練習をしてみてください。相手に何かを伝えるとき、嫌なことがあったとき、何かを謝るとき、メールを多用していないでしょうか。メールに逃げたくなるのは、「話す」「対話する」というコミュニケーションの覚悟から逃げているからです。(第6回に続く)


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山元賢治(やまもと・けんじ)
1959年生まれ。神戸大学卒業後、日本IBMに入社。日本オラクル、ケイデンスを経て、EMCジャパン副社長。2002年、日本オラクルへ復帰。専務として営業・マーケティング・開発にわたる総勢1600人の責任者となり、BtoBの世界の巨人、ラリー・エリソンと仕事をする。2004年にスティーブ・ジョブズと出会い、アップル・ジャパンの代表取締役社長に就任。iPodビジネスの立ち上げからiPhoneを市場に送り出すまで関わり、アップルの復活に貢献。
現在(株)コミュニカ代表取締役、(株)ヴェロチタの取締役会長を兼任。また、(株)Plan・Do・See、(株)エスキュービズム、(株)リザーブリンク、(株)Gengo、(株)F.A.N、(株)マジックハット、グローバル・ブレイン(株)の顧問を務める。その他、私塾「山元塾」を開き、21世紀の坂本龍馬を生み出すべく、多くの若者へのアドバイスと講演活動を行っている。
著書に『ハイタッチ』『外資で結果を出せる人 出せない人』(共に日本経済新聞出版社)、共著に『世界でたたかう英語』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。