自然出産にこだわる妊婦さんもいるけれど…

 4つ目の理由として、分娩のときに赤ちゃんの心拍が下がる、胎盤に異常が起こる、母親がいきめずに母子ともども疲れてしまうなどから、帝王切開となってしまうことがあります。

 私がある地方病院で当直を担当したときのことです。
 その妊婦さんは45歳でした。陣痛誘発剤を入れても生まれる気配がありません。
「2日間様子をみましたが生まれません。赤ちゃんの心拍数が何度か下がってきているので帝王切開に切り替えましょう」と提案したところ、「帝王切開は絶対いやです。私は自然に産みたいです」と、それから押し問答になってしまいました。
 陣痛誘発剤を使っても生まれず、妊婦さんも赤ちゃんも疲れきっている場合、帝王切開に切り替えないと厳しいというのが私たち産婦人科医の見立てですが、患者さんは「まだ大丈夫」と思ってしまうのです。
 説得は続き、夜の10時になりました。
「赤ちゃんはくたくたに疲れています。このままだともちません。助けるために早く帝王切開にしましょう」と言っても、「あと2時間粘ります」と陣痛がくるのを待ちました。結局、夜中の12時になって「疲れました。帝王切開にしてください」と納得してくれました。

 帝王切開をしたくない理由は「体を傷つけたくない」「ナチュラルバース(自然分娩)を望んでいる」「バースプランにこだわりがある」などさまざまでしょう。

 希望にそったお産ができればもちろんよいのですが、状況が変わることもあります。赤ちゃんやお母さんに危険が迫っていると医師が判断したら、帝王切開になりやすいということをわかっておいてほしいと思います。特に高齢出産、体外受精の場合には、帝王切開が多くなる印象があります。

 陣痛の痛みは男性には理解できないものでしょう。
 余談として、男性は陣痛の痛みに耐えられるかというオランダでの実験を紹介します。この実験は、2人の男性が電極装置をおなかにとりつけて、電流を流し、陣痛を疑似体験するというものでした。その結果、苦痛で顔をゆがめ、2時間でギブアップしてしまいました。医学的に信頼のおける実験ではありませんが、陣痛はかなりの痛みをともなうということを男性には理解してほしいと思います。