雇用主に繁栄、働き手に豊かさ
マネジメントによる「組織のイノベーション」

「マネジメント」の目的について、テイラーはまずこのように書いています。ここがいちばんのポイントでしょう。

 マネジメントの目的は何より、雇用主に「限りない繁栄」をもたらし、併せて、働き手に「最大限の豊かさ」を届けることであるべきだ。
「限りない繁栄」という表現は広い意味に用いている。単に大きな利益や大きな配当を指すのではなく、あらゆる事業を最高水準にまで引き上げ、繁栄が途絶えないようにすることだ。
 同じく、働き手に最大限の豊かさを届けるとは、相場よりも高い賃金を支払うだけでなく、より重要な意味合いを持つ。各人の仕事の効率を最大限に高めて、月並みな表現ではあるが、可能性の限りを尽くした最高の仕事ができるようにする。さらに、事情が許せば、そのような仕事を実際に与えることである。(10ページ)

 本書ではあからさまに書いていませんが、「したがって労働組合は不要である」とテイラーは主張します。労組と対立したのはそのためでした。

 テイラーは勤務先のベツヘレム・スチールで実際に次のような観察を残しています。本書の記述をもとに要約すると、

 当時、銑鉄運びの1日一人当たり作業量は12.5トンだった。8人の作業者のうち、47.5トンを運ぶ頑健な労働者は一人だった。つまり8分の1である。そこで、他の職場から最適な体格の労働者を7人集めた。労働者は数千人いたので簡単にピックアップできた。次に不適格だった7人を適切な他の職場に回し、全体が効率化した。適職を探し、訓練してそれまでより高い賃金を得ることが可能になった。一方、マネジャーは絶えず観察し、サポートする。作業を効率化して生産を増やした作業者に賃金を上乗せする。こうしてマネジャーも労働者もそれぞれ仕事を分担し、効率化はさらに進むことになる。(72〜75ページ、筆者要約)

大量生産の世紀を実現させた手法!<br />小説化もされた「マネジメントの原点」カバーのソデ部分にはドラッカーのテイラー評が。
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 このような改善を積み重ねて生産性を上げ、収益率を向上させ、「最大限の豊かさ」を追求したのです。本書は大量生産時代初期、そしてマネジメント初期の重要なテキストであります。

 これは画期的な「組織のイノベーション」でした。イノベーションといえば、ヨゼフ・シュンペーター(1883-1950)が考案した資本主義を駆動するコンセプトです。当時オーストリア帝国のグラーツ大学教授だったシュンペーターは、1913/14年冬学期から14年夏学期まで、ニューヨークのコロンビア大学に招聘され、交換教授として滞在しました。

 アメリカの1910年代前半は機械工業の進展とテイラー・システムによって自動車産業が成長し、資本が蓄積され、人口は急増して経済力が増大する時期でした。シュンペーター流にいえば、革新的な企業家がイノベーションを起こしていた時期です。ウキウキして米国経済の活況を観察したに違いありません。そして帰国後はイノベーション論に磨きをかけ、『経済発展の理論』第2版(1926)を書き上げたのです。