ビッグデータを用いた仮説づくりはコンピュータが行う

矢野和男
日立製作所 研究開発本部 中央研究所 主管研究長

1984年日立製作所入社。2000年代初め頃からビッグデータの収集・活用技術で世界を牽引してきた。論文被引用2500件、特許出願368件。人工知能からナノテクまで専門性の広さと深さで知られる。現在、日立ハイテクノロジーズのビッグデータ事業化PJ長を兼任。IEEEフェロー。

 次にビッグデータの技術、ビジネス適用の最前線について語ったのは日立製作所中央研究所の矢野和男主管研究長だ。ビッグデータとは何かと問いかけた上で、次のような見解を示した。

「ビッグデータとは、人間が見切れないほどのデータです。詳細までは分からないという意味ではありません。大量すぎて、または多様すぎて、大まかな傾向さえつかめないということ。そんな特性を持つビッグデータについて、果たして人間が仮説をつくることができるでしょうか。ビッグデータを活用するためには、仮説づくりを含めてコンピュータに担わせる必要があります」

 そして、ビッグデータを収益につなげるために、次の3原則を提示した。

 第1に目的の明確化。向上させるべき具体的なアウトカムを明示することである。

 第2にデータ収集。アウトカムに関連するデータをヒト・モノ・カネそれぞれの分野で幅広く取得する。

 第3に前述した仮説づくり。人間の仮説に頼らず、コンピュータを使ってデータから逆推定するのである。

 あるホームセンターで、これらの原則に基づいた実証実験が行われた。目的は客単価の向上である。そのために、POSデータをはじめ、店舗スタッフのシフトなどの業務データ、店舗設備の配置などのデータを収集。加えて、店頭で顧客に対して名札型のセンサーの装着を依頼し、顧客の買い回り動線を把握できるようにした。

「センサーによって動線だけでなく、いつ誰と誰が何分間対面したかなどの情報も取集。あらゆる情報を取得し、6000の軸で顧客行動における影響の連鎖を分析しました。その上で、店内の高感度スポットを特定し、その場所にスタッフを配置した結果、客単価の15%アップを実現しました」

 客単価の15%向上は、同ホームセンターの営業利益率を5%から10%に倍増させるほどのインパクトがあるという。

 コンピュータによる仮説づくりは、コールセンター事業者の業績改善においても効果を上げた。この事例ではコールセンタースタッフに名札型センサーを付けてもらい、コールセンター内での各人の身体の動きや対面コミュニケーションの状況などを可視化。休憩時間の雑談など業務以外での集団活性度が増すほど受注率が高まるとの仮説を導き、適切な施策を講じて成果を上げたという。

 こうしたビッグデータ活用のノウハウをベースに、日立は今年6月に流通業向けの新サービスを開始する。人間の行動データと業務関連データを統合する「ヒューマンビッグデータクラウド」を用いた、業績向上のための支援サービスである。