大竹 夏休みが始まる前の時点では、毎日コツコツやる、あるいは、7月中に宿題を終えてあとは思いっきり遊ぶという計画を立てる。けれども実際には、8月31日になって慌てて宿題に取り掛かる。それが、ほとんどの人が思い当たる経験ではないかと思います。

 これは、将来の利益と目先の利益を天秤にかけると、目先の利益を選んでしまいがちである、という「現在バイアス」として知られています。夏休みの最終日までに宿題が終わっているという長期的な利益より、毎日ひたすら遊ぶことで得られる短期的な利益が大きく見えてしまうのです。

将来の利益は小さく見えて、現在の利益が大きく見える。現在に偏っているから、「現在バイアス」ということです。貯蓄やダイエットの前に立ちはだかるのも、この「現在バイアス」の壁です。

実は利他的な生き物?――「経済学者」のホンネ

――「経済学」は、日常の行動パターンを説明できる身近な学問だということなんですね。

大竹 そのことを、ひとりでも多くの人に実感してもらいたいと思っています。それが、私がこの企画の総合監修を引き受けた一番の理由です。この企画展に協力してくださった多くの先生方も、そう感じているのではないでしょうか。

「行動経済学」は、極めて学際的な学問分野です。心理学や物理学、脳神経科学など、社会科学と自然科学を跨いでさまざまな分野の学問が融合した、非常にダイナミックな学問領域です。その各分野の最前線を走っている先生方が、みなさん忙しいにもかかわらず、積極的に協力してくださいました。

 その背景にあるのは、「経済学」への誤解に対する不満です。

 自分たちが感じている「経済学」の面白さが正しく理解されないばかりか、「経済学者」は、計算高くてこずるい、利己的でいけすかない奴らだと、白い目で見られてさえいます。 しかも、その嫌われ方に、合理的な根拠はまったくありません。世間の人の「思い込み」という不合理な直感で、悪評に晒されているわけです。

 そんな中、今回監修した「おかね道」という展示について、日本科学未来館からご連絡いただきました。

 この企画展によって、大勢の人に「経済学」の面白さを体感してもらえれば、こうした「経済学」への偏見を取り除いていくことができるのではないか――。そう思ってさまざまなジャンルの先生方とともに、多くの「経済学者」にも声をかけました。そしておそらく私と同じように思ってくれたからこそ、大勢の「経済学者」が、「経済学」全体の利益のために、貴重な時間を使って積極的に協力してくれたのだと思います。

 自分のことしか考えず、冷酷だと見られがちな「経済学者」は、実は利他的で、情熱溢れる人たちだったということです。

※次回は、合理と不合理とは一体何なのか、どうすればよりよく生きていけるのか、に迫ります。第2回、大竹先生【中編】は、5月1日に掲載予定です。


ようこそ、科学×経済学の実験場へ!

波瀾万丈!おかね道

なぜ、「経済学者」は嫌われるのか?<br />――実は「利他的」な経済学者が伝えたい、<br />  経済学の「2つの醍醐味」

今日のランチやお小遣い、ローン返済に保険に年金。次こそは「賢い決断」を、と思いつつもいつも失敗していませんか?
あなたのお金の使い方には、あなたの判断や行動の“クセ”が現れます。そしてそんな“クセ”が、思わぬ形で社会にも影響を与えているのです。
お台場に現れた「架空の町」にて待ち構えるは、あなたの“クセ”、そして本当の姿をあぶり出す「10の実験」。ここで身につくは、お金と正面から向き合い、行動するための心構え——「おかね道(どう)」。科学と経済学、前代未聞のコラボレーション、ここに開幕!

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