経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第29回】 2013年4月30日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【小田嶋孝司氏×武田隆氏対談】(前編)
企業ブランディングの原点は「水戸黄門」にあり!?

「控えおろう、この紋所が目に入らぬか!」――ジャジャーン!(印籠を提示)――「ハッ(動揺)、ははーっ!」
日本人なら知らぬ者はいないであろう、『水戸黄門』の名シーンだ。
さて、このシーンはなにゆえ成立するのかと考えていくと、なかなか興味深い。印籠を提示する助さんサイドも、またそれを示された悪代官たちも、あの印籠が水戸藩主・徳川光圀である証拠で、かつ黄門様は偉いと認知しているからこそ「ははーっ!」となるわけだ。
この関係性は、企業のコーポレート・アイデンティティ(CI)の意味合いを考えるうえでわかりやすい。今や「ブランディング」という言葉で語られることが多くなったCIという概念。今回は、数々のCIを手がけてきた株式会社SHIFT代表取締役の小田嶋孝司氏をゲストにお迎えし、そもそもアイデンティティとは何か、ロゴマークの果たす役割とはどのようなものなのか、改めて企業ブランディングの原点について考えてみたい。

個人の精神的な課題を、企業に当てはめて考える

武田 今回は、NTT、伊藤忠、松屋銀座、キリンビール、NTT DoCoMoなど、数々の企業のCI(コーポレート・アイデンティティ)プロジェクトに携わってきた小田嶋孝司さんをお迎えしています。まずはコーポレート・アイデンティティとは何か、というお話からうかがわせてください。

小田嶋孝司(おだじま・たかし) 1947年札幌市生まれ。1970年北海道大学獣医学部在学中にソ連経由でヨーロッパ・アフリカからアメリカを放浪。1971年ニューヨーク「STUDIO21」に所属し、日本レストランのインテリア施工等の傍ら映画制作等に従事。1972年パリに招聘され、日本建築や和風庭園造営のコーディネーションに従事。パリ大学ソルボンヌ・ヌーベル仏語科終了。1977年CIコンサルテーション会社(株)PAOS入社。常務取締役プランニング室長。1991年(株)SHIFT設立、代表取締役。1999年以降現在まで、武蔵野美術大学芸術文化学科非常勤講師。主な仕事:電電公社民営化(NTT)、NTT移動体通信事業分離独立(NTTDoCoMo)、キリンビール、伊藤忠商事、野村総合研究所、一橋大学イノベーション研究センター、伊藤忠テクノソリューションズ、積水化学、三井不動産リアルティ(三井のリハウス/三井のリパーク)、広島県(観光地ブランド開発)他多数のCI開発/経営コンサルテーション。主な著書:『シンボリック・アウトプット』(プレジデント社)、『健識経営革命』(プレジデント社)、『「日の丸」「君が代」ってなに?日本のシンボルを考える』(毎日新聞社)、『デザイン事典』(日本デザイン学会編、朝倉書店)、「NTTDoCoMoのブランド・アイデンティティ戦略」『一橋ビジネスレビュー』(東洋経済)他。

小田嶋 それでは、そもそも「アイデンティティとは何か?」という話から始めましょうか。アイデンティティというのは、かなり古くからある概念ですが、アメリカの発達心理学者エリク・H・エリクソンが提唱した概念から一般化されました。もともとは個人の精神的な課題を表す言葉です。

武田 自己同一性、というものですね。

小田嶋 そうです。ヒトは生まれてからしばらくは、母親と一体化すること、離れないことが一番大事な価値とされているのですが、だんだん自我が芽生え、いろいろな情報を吸収し始めると、母親との違いを自覚するようになります。そうして、生まれ持った性質や環境と、「こうありたい」「こうしたい」という自意識との間に齟齬が出てくるんです。

武田 「好きで生まれてきたわけじゃない!」という反抗期の子どもの名セリフにもあるように(笑)、人生は受動的に始まるものですからね。

小田嶋 まさにそれです。親は選べないし、生まれる時の国籍も選べない。DNAにいたっては自分の意志ではどうにもならない。小学校くらいまでは、自分で学校を選ぶこともできない。

 でもだんだんと自分のなかから、やりたいことが出てくる。そこで、生まれ持った自分の性質や気がつくとまわりにあった環境などと、自分のうちなる声とに、ズレが生じてくるわけですね。そのズレが小さければ小さいほど、アイデンティティの同一性は保たれているといえる。

武田 お寺の息子として生まれて、いろいろやんちゃもしたけれど、30歳くらいになって「やっぱり俺は仏門に戻る」と決意する、とか、そのような感じですかね……。

小田嶋 歌舞伎役者なども、生まれながらの環境とやりたいことが一致しやすい人が多いように思えます。ただ、たいていの人は、その2つの間にズレを感じている。そして、そのズレが大きいと、自分が何者なのかわからなくなり、アイデンティティ・クライシスが起こる。ですから、身分制度が固定していた時代のほうが、一般的なアイデンティティは安定していたかもしれません。

武田 こういった、個人にとってのアイデンティティという概念を、企業に当てはめたのが「コーポレート・アイデンティティ」、略してCIということですね。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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