前2回の連載では、ニッサン(日産自動車)とホンダ(本田技研工業)の経営分析を詳しく行なったが、自動車業界を論ずるのであれば、本来は真っ先に業界トップのトヨタ(トヨタ自動車)を扱うべきだろう。

 ところが残念なことに、筆者の住む栃木県にはニッサンとホンダの工場はあっても、トヨタの栃木工場はない。筆者がよく利用する国道4号線沿いの親しみ深い企業として、まずはニッサンとホンダを取り上げた次第だ。

 そこで今回は、トヨタ、ニッサン、ホンダといった「自動車業界トップ3」のパワーバランスをファイナンス分析で明らかにしながら、王者のポジションを同業他社から常に虎視眈々と狙われているトヨタの今後について、徹底分析してみよう。

 09年3月期は過去最大級の赤字に陥る見通しのトヨタだが、依然として事業規模や市場シェアは他を圧倒している。だが、王者が混乱期に足許をすくわれ、しばしば“下克上“が起きるのも経済界の常だ。果たして、同社に“死角”はないのだろうか?

 もちろん、同じ自動車業界の企業同士を比較するにしても、ニッサンやホンダでは現時点でトヨタと差があり過ぎる。また、四輪車だけでなく二輪車事業も行なっているホンダを、他社と比べるのは無理があることも承知している。それらを予めご了承いただいたうえで、話を進めて行こう。

自動車業界5社のタカダバンドで
はっきりわかる「苦境の凄まじさ」

〔図表1〕自動車大手5社のタカダバンドと売上高
事業効率が最高でも固定費は予想の2倍!<br />他社の追撃を侮れないトヨタの“懐事情”

 まず最初に、自動車業界大手5社(トヨタ、ニッサン、ホンダ、マツダ、スズキ)の各種売上高を合算した〔図表1〕をご覧いただき、業界全体の動向を掴もう。

 これらは企業の収益力を示す指標だが、詳細については前2回の「ニッサン」「ホンダ」の分析コラムをご参照願いたい。また、事業規模が比較的大きい三菱自動車や富士重工業などをあえて割愛したことも、お断りしておく。

 これを見てもらえば、08/3(08年3月期)において、タカダバンド(実際売上高がここに近づけば近づくほど、企業の収益体質が向上していると見られるゾーン)や損益分岐点売上高(利益と損失の別れ目となる売上高)が、下に大きく蛇行していることがわかる。これは、前回のコラムで採り上げたホンダの影響が大きい。