若手女性デザイナーが考える
これからのデザイン思考

 デンマークのこれからのデザインを作るのは、若いデザイナー達です。家具についてリサーチをしているときに、あるデンマーク人の女性に出会いました。

 建築家でアーティストでもあるアン・ボイセン・ロレンセンさん(32歳)(www.anneboysen.dk)です。デザインアワードを受賞した人のコレクションをまとめた一冊の本がきっかけで、彼女のことを初めて知りました。アンさんはこのDanish Design Award 2012でTalent of the Yearにノミネートされていました。

デンマーク人はなぜ、<br />家具のセンスが良いのか?

 ページをパラパラとめくり、ふと目に留まったのは彼女が建築学校のファイナルプロジェクトでデザインしたソファでした。それは私達が普段目にする“普通”のソファではありません。10通りの座り方ができるソファなのです。2020年の若者が座るソファを想定してデザインされたそうです。

デンマーク人はなぜ、<br />家具のセンスが良いのか?

 そのデザイン過程はとても興味深いものでした。ある日電話インタビューに応えてくれた彼女は、こう言いました。

「約6カ月間、人を観察するためだけに時間を費やしました。人々がどのようにリラックスして時間を過ごし、どのように本を読み、電話で話しているのかなどを観察したのです。

 人が家具とどのようにインタラクションしているのかを学んだあとに、彼らがどのように座り、休むのか、異なる座り方やそのポジションについてのイメージボードをつくりました」

 デザインする上で苦労した点はどこですか?

「調査の結果をソファのデザインに落とし込むまでのプロセスです。何百枚もの家具のスケッチを書いたのですが、ある一つの家具がいくつかの問題を解決するものの、すべての問題を解決することはできないのです。1脚の椅子ではできないことを可能にする、考えた末それがソファだと思いついたのです」

 どのようなデザイン思考を使ってデザインしたのですか?

「1年前、オランダの教授が考えたVIP(Vision in product design)という手法について書かれた記事を読みました。家具と人のインタラクションを考えることで、より良いプロダクトを創るものです。それは、「椅子をデザインしたい」という考えから始まるのではなく、「人々がストレスを感じない家具を創る」という思考から始まるのです。だから始めはソファをデザインするかどうかわかりませんでした。

 そうして、人がどのようにリラックスして、家具に反応するのかを観察しはじめたのです。

 例えば、パブリックのレストランで知らない人に囲まれているときと、家にいるときの人と家具の関係は異なります。家にいるときは、もっとゆったりしているので、どんな座り方をしているかなんて考えることもありません。他の人がいる場所に座るときは、ちゃんと座らなければいけないと考えます。

 結果的にそれが、私たちの気分に影響するのです。このVIPメソッドでは、どのように人の振る舞いを観察して革新的な未来をつくるのかということに重点が置かれています。

 VIPメソッドを使って一番良かったこと、学んだことは何ですか?

「VIPはより未来思考なのです。デザインの手法は私たちのプロダクトが担う未来にフォーカスされています。これにより、デザイナーとしてより良い持続可能な未来を創ることができるのです。

 またこのメソッドを使うことで、未来について学ぶことの大切さに気づきました。メガトレンドをすべて見ることは重要です。人口、経済、ヘルスケア等がどのように発達するのか。これらは未来に正当な価値のあるものをデザインするために必要なことです」

 多機能のこのソファは「他人とは違うユニークなものが欲しい」という若者のニーズを満たしながら、彼らが座ったときにストレスを感じない家具デザインを実現しました。デザイン・ドリブン・イノベーションの考えを新しい角度から見つめて取り組んだプロジェクトです。

 アンさんはシンプルな生活を可能にする家具を作るため、いつか自分の会社を持つことが夢だと語ります。そんな彼女の家の写真を見せてもらいました。シャープな印象の空間にバランスよく配置された丸みのある家具の組み合わせはとても素敵です。ダイニングテーブルを見ると、やはりそこにはいろんな種類の椅子が並んでいました。(第5回に続く)

デンマーク人はなぜ、<br />家具のセンスが良いのか?

 


デンマーク人はなぜ、<br />家具のセンスが良いのか?

大本綾(おおもと・あや)

1985年生まれ。立命館大学産業社会学部を卒業後、WPPグループの広告会社であるグレイワールドワイドに入社。大手消費材メーカーのブランド戦略、コミュニケーション開発に携わる。プライベートでは、TEDxTokyo yz、TEDxTokyoのイベント企画、運営に携わる。2012年4月にビル&メリンダ・ゲイツ財団とのパートナーシップによりベルリンで開催されたTEDxChangeのサテライトイベント、TEDxTokyoChangeではプロジェクトリーダーを務めた。デンマークのビジネスデザインスクール、The KaosPilotsに初の日本人留学生として受け入れられ、2012年8月から留学中。
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