2007年9月、私は日本から60名の経営者とともに、ロシアを訪れました。経営者達はロシアの状況を目の当たりにして驚いていました。

 「大前さん、日本ではこんなこと、どこにも報道されていないじゃないですか」

 彼らの言うとおりです。我々が理解しているロシアは現実に存在するロシアとは異なっているのです。37年前、私は初めてロシアを訪れました。以来、ずっと通い続けていますが、つくづく日本はロシアを理解していないと感じます。その点、アメリカ企業は違います。

 アメリカには難易度の高い技術に関して、ロシアに研究開発部門を置いている企業が多くあります。前回、グローバリゼーションは工場の最適化だけではなく、R&D――研究開発にまで及んでいることをお話しました。それはロシアに対しても同じです。

ロシアの高い技術力を
手中に収めたアメリカ企業

 半導体メーカーのインテル(Intel)は、ロシアにおよそ3000人の研究者を抱えています。この数はアメリカにいるインテルの技術者の数と同じなのです。もともとロシアは、小さいメモリのなかにロジックを詰め込む技術に長けていました。そのことを知っていた共同創業者のアンドルー・グローヴはエリツィンが大統領に就いていた頃、大量の技術者を採用しました。

 インテルだけではありません。ボーイングも1500人の開発研究者をロシアで雇用しています。こちらもアメリカとほぼ同数です。ボーイングの旅客機のなかには、ロシアで基幹部分が設計されたものもあります。

 もともとロシアにはツポレフやイリューシンといった航空機に関する優れた技術を持った企業があります。技術力は高いのですが、なかには業績の芳しくない会社も見られます。ボーイングはそのような企業に目をつけ、優秀な技術者を採用しました。ロシアを観察し、ロシアを知ることで、インテルやボーイングといったアメリカ企業はより高い技術を手中に収めたのです。