コミットメントが仇になる?

――コミットメントをうまく使えば、「不合理な」人間が、「合理的」になれるんですね。

大竹 ただ、あまりにコミットメントで「がんじがらめ」にすると、環境の変化に対応できなくなるというデメリットもあります。環境が大きく変わると、当初のコミットメントを変えたほうが、得られる利益が大きくなることも十分にありえます。

「罰ゲーム」の経済学<br />――コミットメント・メカニズムで<br />「不合理な自分」を変える!

 わかりやすいのが貯金の例です。毎月定期的に貯金するために、目先の誘惑に負けないように、強制的に天引きすることにしたとします。

 確実にお金を貯めるという意味では「合理的」ですが、そのために、目の前にある大きな利益を失う可能性もありえます。たとえば、素敵な人と出会って、食事に誘いたいと思ったときに、貯金したために手元に使えるお金がなかったとしたらどうでしょうか?貯金のために、人生を左右するかもしれない大きなチャンスを棒に振ってしまうとしたら、大きな損失です。

 又吉さんのダイエットの例でも、ダイエットに必死に取り組むあまり、他の仕事のパフォーマンスが落ちてしまう危険もありますよね。少しパフォーマンスが落ちるくらいなら大きな問題になりませんが、ダイエットのし過ぎで体を壊したりしてしまったら、大きな不利益につながります。

 このように、コミットメントには、常に「トレードオフ」があるということを頭に入れておく必要があります。

何が「合理的」かなんて決められない?

大竹 毎月定期的に貯金することには、別の意味での「不合理さ」もあります。

――それはどういうことでしょうか?

大竹 天引き貯金は、長期的にはお金を貯めるためには確実な方法ですが、収入が変動すると、生活に使えるお金も変動してしまいます。毎月10万円貯金することになっているとして、収入が20万円に落ち込んでしまうと、日々の生活を圧迫しかねません。目の前の必要性を犠牲にして、長期の利益を確保することが、果たして「合理的」かどうか……。

 生活を犠牲にすることなく、長い目で見てお金も貯められるいちばん「合理的」な方法は、お金が潤沢にあるときに貯蓄するというやり方です。収入が少ないときに無理して貯金するのも「不合理」なら、収入が100万円あって、60万円貯金しても大丈夫なときに、決めた額だからと10万円しか貯金せずに、90万円使ってしまうのも「不合理」ですよね。収入の多寡に応じて貯蓄額を変えれば、目先の必要性と長期の利益を同時に達成することができます。きわめて「合理的な」方法です。

 ただ、これにはこれで弱点があります。お金があるときに貯蓄しようと思っていても、つい使ってしまうといつまでたってもお金が貯まりません。