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アベノミクスに対する海外の見方 - 村上尚己「エコノミックレポート」

来週の重要経済指標、主要企業決算についてPDF版のレポートで解説しています


先週まで、フランクフルト、ロンドン、ワシントン、ニューヨークの各都市において金融機関の専門家や当局者を訪問し、経済動向や金融市場について意見交換を行っていた。今回の出張で印象深かったのは、ミーティングのたびに、面談相手から日本経済や黒田日銀の政策について質問されたことである。これまでの海外出張においては、日本経済について筆者が質問されることはほとんどなかったが、全く様子が違った。

日本銀行の新たな金融緩和策が成功するか、長期停滞が続いていた日本経済や株式市場がこのまま復活するのか、など面談者の立場や関心によって問題意義は若干異なっていた。4月の最初の金融政策決定会合で、黒田日銀が「バズーカ砲を繰り出した」などと、日本や海外メディアが報じていた。

そのためか、フランクフルトにおけるドイツ人の面談者からは、そんな大規模な金融緩和に踏み出して大丈夫なのか?とやや懐疑的なニュアンスで聞かれることがあった。アベノミクスに対しては日本でも様々な見方がメディアから発せられているが、大胆な金融緩和がもたらすリスクを煽っているのが多い。同様の疑問を抱いている面談者に対して、実際に、金融市場で起きた円高修正+株高の資産市場の変化が、企業・家計の支出行動を変化させ景気回復が実現している、という客観的な事実を説明した。

実際、2013年1―3月実質GDP成長率は前期比年率+3%前後に高まり、消費住宅など家計部門の支出が成長を支えたとみられる。もちろん、まだ賃金は上昇していないが、景気変動を決める家計や企業の支出行動は、「これ以上状況が悪化しない」あるいは「将来所得が増えるかもしれない」という心理の変化で動く。この動きについて、「本物の景気回復ではない」「持続性に疑問」などとよく言われるが、景気変動の本質を理解していないだけである。

つまり、日銀の金融政策の方針転換で、資産市場が大きく変動そして人々のインフレ期待が動き景気回復は始まっている。なぜそれが起きたかといえば、白川体制における日本銀行の金融緩和策が不十分であり、それが故に人々のデフレ期待が強固になり、長期の景気停滞から抜け出せなかったためだ。

だから、日本銀行のリーダーが変わり、金融政策が180度変わったことが、日本人の支出行動を変化させる。そして、妥当な政策が実現すれば、最終的に我々日本人の経済的豊かさが高まるのである。

こうした経済理論が教えるメカニズムが、今まさに日本で働いているのである。リーマンショック以降、米英欧で中央銀行がバランスシートを大きく増やしたが、日銀がそれに追随せず金融緩和が不十分だった(グラフ参照)。だから、今回は、他国に追いつく格好でようやく金融緩和を強化させたわけだ。今回の出張でも、これらの説明を行うことによって、アベノミクスに懐疑的な面談者にも、ほぼ納得いただけたと思う。



また、金融市場に比較的精通しているエコノミストからは、以下のように質問をうけた。「年初に、日本の大手機関投資家を訪問した時は、新体制になっても日銀は変わらないと皆言っていた。一体何が起こったんだ?」

これについては、2月15日レポートで解説したが、当時は、従来の日本銀行の路線を引き継ぐであろう、武藤氏、岩田一政氏が総裁レースの本命とされてきた。両氏への市場の期待が高かった背景には、日本銀行や霞ヶ関から、両氏を軸に新たな日本銀行の体制を構築する水面下の動きがあり、その感触を、銀行などの大手機関投資家が感じていたことがある。先ほど質問したエコノミストは、そうした投資家を訪問していたのである。

ただ実際には、安倍首相のリーダーシップによって、特に武藤氏とは全く考えが異なる、「黒田+岩田(規)」体制となった。同レポートでも説明したが、両氏が日銀総裁・副総裁に望ましいと考える市場関係者は、筆者を含めてかなりの少数派であった。

これまでとは全く異なる経緯、つまり安倍首相そして少数のアドバイザーによる官邸主導で、新たな日銀執行部が決まったわけである。こうした政治事情を、具体的な人物の名前や経緯を説明しても、外国人にはなかなか伝わらない。

なので、筆者は以下のように答えた。「デフレ継続を前提としていた投資家にとって、革命が起きたということだ。」この筆者の言葉の意味を理解してくれたこのエコノミストは、「そうか。大きな政策転換だから、ようやく日本もデフレから抜け出せそうだな」と応えた。

彼は、米国に在住しており、デフレ防止に必死な米FRBを常に見ている。だから、デフレ放置を続ける従来の日本銀行の政策に疑念を抱きながら、日銀の政策を観察しており、その動向を日本の投資家を通じて探っていたわけである。

これらの海外の市場関係者の反応をみると、日本銀行が生まれ変わり、脱デフレを目指した従来とは異なる政策対応が日本経済に及ぼす変化について、まだ完全には織り込まれていないと言えるのではないか。

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(チーフ・エコノミスト 村上尚己)

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(マネックス証券)


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