ルーム・トゥ・リードの成長が加速したきっかけとは?

ウッド ずっと「大きなことをやるんだ」というイメージは描いていましたし、どうせやるならより良い活動をしたいという思いもありました。しかし、こんなにもスピーディーに活動規模が大きくなるとは思っていなかったんです。

 1冊目の著書『マイクロソフトでは出会えなかった天職』を2006年(邦訳は2007年刊行・編集部註)に出版したのですが、それが転換点でした。本の出版と前後して、ルーム・トゥ・リードの成長が急に加速したのです。

 ただ、大きく成長できたことについては本当に嬉しい気持ちですが、同時に謙虚な気持ちもあります。道のりはまだ長いんです。何千万もの子どもたちが、まだルーム・トゥ・リードの名前すら聞いたことがありません。学校がなく、教育を受けられない子どもがたくさんいるんです。

 たしかにルーム・トゥ・リードは780万人の子どもたちに教育の機会を届けてきましたが、いま考えているのは、どうしたらこれを1000万人、1500万人、2000万人にできるのか、どうすれば継続的に成長できるのかということです。

【ジョン・ウッド氏×神田昌典氏対談 前編】<br />NPOの成功で大切なことは<br />マイクロソフトが教えてくれた「ビジネスと教育」という共通項を持つお2人。初対面とは思えない和やかな雰囲気での対談となった。

神田 ルーム・トゥ・リードを設立される以前は、30代でマイクロソフトの要職に就き、ITブームの全盛期に中国事業の開発を担当されていたそうですね。急速に成長する企業で働くというビジネス経験は、NPOの創設や運営に役立ちましたか?

ウッド もちろんです。たとえば、マイクロソフトでは優秀な人材の採用に力を入れており、どうすれば賢くて意欲が高い努力家を雇えるのかを考えていました。地理的に離れた複数の拠点をどのように経営すべきか、業績の測定にはどのような指標を使えばよいかといったこともマイクロソフトで学びました。

 私は、ルーム・トゥ・リードをチャリティ(慈善事業)とは呼ばず、オーガナイゼーション(組織)という言葉を使っています。チャリティという言葉は古く、非効率的なものだと見られているからです。それに対して、組織はビジネスのような形で運営されます。

 幸いなことに、私はノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院でMBAを取得し、マイクロソフトで9年間にわたり実務を学ぶことができました。自分がビジネス界で学んだ考え方や手法を、NPOにも応用したいと思っています。もしすべてのNPOが経済効率の良いやり方を選び、業績を測る指標を使い、世界トップレベルの人に運営されれば、世界はもっともっと良くなると思います。