私たちが求めているのは、
「小さな気持ちの恩返し」

 当時の私は、Yさんの好意を「受け取りっぱなし」にするだけで、「恩を返そう」とか「感謝を示そう」という姿勢が薄れていたのです。

 Yさんにしていただいたことを「そっくりそのままお返しする」ことはできなくとも、すくなくともお財布を出して払おうという意思を見せるとか、旅行に行ったらおみやげを渡すとか、実家から送られてきた果物をお裾分けするといった、「小さなお返し」はできたはずです。

 それなのに、あのときの私は、Yさんへの感謝を忘れていました。

 私はいま、大学生の進路相談に乗ることがあります。食事をしながら話を聞くときは、もちろん年長者の私がお金を支払います。

 するとあるとき、学生のひとりが「松澤さんにはいつもごちそうになっているので、学食でよければ(笑)、今度は僕たちがおごります」と言ってくれたのです。

 私はすごく嬉しかった。「返すものの大きさ(値段など)」に、価値があるのではありません。「返したいと思う気持ち」が、もっとも尊いのだと思った瞬間でした。

 私のよく知る副社長は、「ごちそうするのは大好きだけど、5回に1回でいいから、それも、ラーメン1杯でもいいからごちそうしてくれて気持ちを返してくれたら、その気持ちが嬉しいと思うな」と話していました。

「一方通行の関係」は、最後にはバランスを崩してしまい、うまくいきません。私たちが求めているのは、「小さな気持ちの恩返し」であり「お互い様の関係」なのかもしれませんね。