内山悟志
アイ・ティ・アール代表取締役

大手外資系企業の情報システム部門やアナリストなどを経て、1994年に、情報技術研究所(現在のアイ・ティ・アール)を設立。大手ユーザー企業のIT戦略立案・実行のアドバイスおよびコンサルティングサービスを提供している。IT分野におけるアナリストの草分け的存在として知られる。著書に、『日本版SOX法IT統制実践法』(ソフト・リサーチ・センター:共著)など。

 そしてもう一つは、経営の見える化である。業務ごとにシステムが構築されている古いシステムでは、必要な時に必要なデータが取り出せない。各種のシステムが統合されたり連携されていれば、経営者が見たいデータをいつでも取り出せる。内山氏は「データを駆使できる環境が整って、初めて経営にサイエンスを持ちこむことができます」とメリットを強調する。もちろん、経営者自身がデータ活用するための知識や能力を持つことが前提となるが、実現できれば企業経営に対するインパクトは大きい。

 三つ目のメリットは、事業展開のスピードへの対応力の強化である。社内のIT基盤を統合してスケーラビリティを確保しておくことで、迅速に必要なところに資源を配分できるようになり、新しいシステムも載せやすくなる。既存のシステムの基本ソフトやプログラミング言語を新しいものに変えることも効果は大きい。「新しい機能の追加や他のシステムとの連携が格段にしやすくなり、ビジネス側のニーズの変化に対応できるようになります」と内山氏は説く。

「単純な載せ換えだけでは、効果は限定的です。ビジネスの本質的な要請に応えることはできません。せっかくシステムを刷新するわけですから、これからの経営を支える見える化を実現し、変化に対応できる俊敏性を備えるようにすることが王道です」と内山氏は三つのメリットをすべて想定したアプローチを推奨する。

システムの刷新には
経営者の後押しが必要に

 そうは言っても、実際にシステム刷新に取り組むのは、三重苦にあえぐIT部門である。さらなる負担を強いることにもなりかねない。IT部門としては根本的な刷新が必要だとわかっていても、現在のビジネスを支えるシステムを運用しているだけに、リスクの大きなチャレンジに取り組めないというジレンマもある。これまでも、結果として、その場しのぎの改変を重ね、ますますシステムが複雑化するという悪循環に陥ってきた。

「経営者はアメとムチを使い分けることが求められますが、システム刷新の場合も同じです。例えば運用費の5割カットという、現状の延長線上の改善では達成できない高い目標を要求し、一方でリスクについては経営者が負うと宣言する、といったことです」と内山氏は提案する。

 内山氏は最後にシステムの刷新における注意点として、システムがもたらす競争優位の確認を挙げた。「古いシステムをERPに置き換えないまま使ってきた理由としては、そのシステム自身が競争優位の源泉になっているという認識があったはずです。この機会にそれをチェックしてみてはどうでしょうか。競争優位につながっているのであれば、その機能を生かすことが大切です」(内山氏)。

 これはシステム開発要員も同じだ。自社内に開発要員を抱えていれば、迅速な開発や改変にも対応できる。テクノロジーの進化のメリットを引き出しつつ、企業としての競争優位を確保するために、どんな体制やシステムが必要なのか。基幹システムから競争力を生み出すには、経営者のバランスのよいかじ取りが求められているのである。