ベトナム 2013年5月15日

一度家族の中に入ると、無限に優しいベトナム。
しかし縁故採用した社員が事件を起こした例も……

日本で15年間の編集者生活を送った後、ベトナムに渡って起業した中安記者が、家族や親戚間の絆が強いベトナムで起こった日系企業の縁故採用トラブルについてレポートします。

快適至極の「ますおさん」生活

 私はベトナムでは妻の実家に居候をしている。いわゆる「ますおさん」状態だ。

 ベトナムに仕事に来るにあたって、妻の家族と同居すると決めたときは、率直に言って不安だった。結婚まで、何度もお宅にお邪魔して妻の家族とはある程度仲良くなっていたとはいえ、訪問するのと同居するのとでは、まるで話が違う。他人の家族と一緒に生活すること自体が初めての体験だ。しかも、私はベトナム語が話せない。

 異国で仕事をするだけでも大きな試練だというのに、言葉の通じない人たちとの同居なんてできるのだろうか。家庭料理が口に合わないかもしれない。生活習慣だって違うだろう。

 結論から言うと、それらはすべて杞憂だった。妻の家族は無限に優しかった。「こんなに甘かったら、人間が堕落してしまうのではないか」と心配になってしまうくらいに。家族を傷つけない限り、すべてが許されると言ってもいいのではないだろうか。

 私たち夫婦は、手持ちのお金を日本に残して来ていたので、ベトナムに来たときは、うかつにもほとんど現金を持ち合わせていなかった。しかしそれでも困ることはなかった。

 食事は妻の母が用意してくれた。ベトナム生活での必需品である携帯電話は、義理の兄が買ってくれた。公共交通機関が発達していないホーチミンで足代わりとなるバイクは、義弟が「僕は彼女とバイクを共有するから、これを使って」と自分のバイクを差し出してくれた。

 幸い、私もすぐにベトナムで収入を得ることができるようになったので、家計に少しは貢献できるようになったが、たとえ無職無収入でも、妻の家族が私を追い出すようなことは、絶対に起こらないだろうと断言できる。それくらい「家族の絆」は絶対なのだ。

 そして家族だけではなく、その周りの親戚達も優しい。妻の実家が改装工事をしたときは、親戚のうちのひとりが我々一家全員を住まわせてくれた。その間、食事、掃除、洗濯も全部、お世話になりっぱなしである。それでも嫌な顔ひとつしないどころか、「家族が増えて良かった」とむしろ嬉しそうなくらいだった。

 もちろん、私も世話になるばかりではない。家族や親戚から何か頼まれると、
「普段、あれだけ世話になっているのだから、少しはご恩返しをしないと」
 と、できる限り、それには応えるようにしている。

ベトナムでは親族が集まる機会が日本より多い。例えば日本では一般的ではないが、子供が1歳になると親族や友人を招いて盛大なパーティをする。写真は私の娘が1歳になったときのパーティの様子。このときは100人を超える方が来てくださった【撮影/中安昭人】

 


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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