経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第30回】 2013年5月14日
著者・コラム紹介 バックナンバー
武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【小田嶋孝司氏×武田隆氏対談】(中編)
NTT DoCoMo 国家を変えるCIプロジェクト秘話

「DoCoMoってどういう意味か知ってる?」「“いつでもどこでも誰とでも”じゃないの?」「ハズレ!実はね……」。
かつて電電公社と呼ばれていた国営企業が民営化して「NTT」となり、そこからさらに分社化して生まれた新会社。その新会社が「NTT DoCoMo」と社名を改めたのは2000年のこと。当時、そのユニークな社名は巷間でも話題になったものだ。
NTT、NTT DoCoMoに関するコーポレート・アイデンティティ(CI)開発に携わったのが小田嶋孝司氏だ。小田嶋氏によれば、実は「DoCoMoってどういう意味?」という話題性すら、新たなCIを浸透させるために入念に仕掛けた戦略だったという。社名誕生の裏舞台には、どうやらおもしろいドラマがありそうだ。

官僚組織だった「電電公社」が「NTT」に変わった

武田 小田嶋さんは、これまでにたくさんの企業のCI(コーポレート・アイデンティティ)を手がけてこられました。テレビCMや交通広告、またはさまざまな売り場などで、消費者である私たちが幾度となく目にしている日本企業のロゴマークも、CIの一部です。なかでも特に印象的だったプロジェクトを挙げていただくとすると、どの会社のものになりますか?

小田嶋孝司(おだじま・たかし) 1947年札幌市生まれ。1970年北海道大学獣医学部在学中にソ連経由でヨーロッパ・アフリカからアメリカを放浪。1971年ニューヨーク「STUDIO21」に所属し、日本レストランのインテリア施工等の傍ら映画制作等に従事。1972年パリに招聘され、日本建築や和風庭園造営のコーディネーションに従事。パリ大学ソルボンヌ・ヌーベル仏語科終了。1977年CIコンサルテーション会社(株)PAOS入社。常務取締役プランニング室長。1991年(株)SHIFT設立、代表取締役。1999年以降現在まで、武蔵野美術大学芸術文化学科非常勤講師。主な仕事:電電公社民営化(NTT)、NTT移動体通信事業分離独立(NTTDoCoMo)、キリンビール、伊藤忠商事、野村総合研究所、一橋大学イノベーション研究センター、伊藤忠テクノソリューションズ、積水化学、三井不動産リアルティ(三井のリハウス/三井のリパーク)、広島県(観光地ブランド開発)他多数のCI開発/経営コンサルテーション。主な著書:『シンボリック・アウトプット』(プレジデント社)、『健識経営革命』(プレジデント社)、『「日の丸」「君が代」ってなに?日本のシンボルを考える』(毎日新聞社)、『デザイン事典』(日本デザイン学会編、朝倉書店)、「NTTDoCoMoのブランド・アイデンティティ戦略」『一橋ビジネスレビュー』(東洋経済)他。

小田嶋 そうですね、前職のPAOS(CIコンサルティング会社。日本における本格的なCIの先駆けであるマツダのCI開発を手がけるなど、日本のCIの草分け的存在)で、キリンビール、伊藤忠、東レ、東京海上、松屋銀座、などさまざまな企業のCI戦略に携わってきましたが、すべてのプロジェクトが印象的です。

 そのなかで強いて挙げるとすれば、NTTの民営化とNTT DoCoMo(2008年にNTT docomoへ表記変更・編集部註)の立ち上げにかかわるCIを手がけたことでしょうか。その規模や難易度からもとくに印象に残っています。

武田 NTTのロゴマークは、日本人であれば誰でも描けるくらい記憶に残っています。かつて、NTTは「日本電信電話公社」という名前の国営企業だったのですよね。

小田嶋 はい。略して「電電」とか「電電公社」と呼ばれていました。1980年代の初頭から、アメリカのレーガノミクスに端を発する新自由主義的経済政策の波に乗って、日本も国営企業を民営化する気運が高まったんです。

 その背景には、のちのソ連崩壊(1991年)などに象徴される、計画経済(経済の資源配分を国家による物財バランスに基づいて計画的に配分する体制)の破綻がありました。少数エリートによる国家管理型の企業が弱体化し、神の見えざる手にゆだねる市場原理への移行が、世界的な大きな流れになったのです。

武田 国鉄もそのあたりで民営化して、JR各社に分かれていきましたよね。国家化、産業化、情報化の3局面からなる近代化の流れのなかで、企業が主役となる産業化の局面(本連載第21回、公文俊平氏との対談を参照)で、電気通信事業も市場の競争にさらし、技術やサービスの向上を図ろうとしたんですね。

小田嶋 そうです。特に電気通信事業は、デジタル化によって情報量が圧倒的に増え、情報通信技術は軍事力に匹敵する安全保障能力と認識されていたのです。

 電気通信は、発信と受信の双方向で成り立っています。したがって、双方に同じレベルの技術が備わっていなければ意味がないわけです。それが国際間となれば、優れた技術を保有するほうにデファクト・スタンダード(標準規格)を譲ることになります。そのため、世界中が通信技術競争力を上げるのに必死だったんです。

 そのような世界情勢のなか、通信事業を、そのまま国営でいくかそれとも民営に変えるかという問題は、各国で議論されていました。国営か、民営かは、どちらがより目的達成への近道かという、選択肢の問題なのです。そして日本は、民営化を決断しました。通信技術で世界のイニシアチブを握るために……です。

武田 国を動かし世界を動かすことが前提のプロジェクトだったわけですね。

小田嶋 はい。日本、そして世界に向けた願いが、1社のCIの変革に、そう、集約すれば小さなひとつのロゴマークに込められたわけです。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


ソーシャルメディア進化論2016

「ソーシャルメディア進化論2016」

⇒バックナンバー一覧