その奇妙な形状から、海外ではDevil fish(悪魔の魚)と忌み嫌われている蛸――。

 1870年にアメリカで発表された小説『海底二万里』から、1977年に上映されたパニック映画『テンタクルズ』、新しくは『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズまで、蛸の化け物は数々の映画やドラマ、小説などに取り上げられてきました。

 日本でも昔から大蛸の目撃談は多く、江戸時代の文献にはこう書かれています。

江戸時代は牛馬を喰らった「蛸《たこ》」も<br />“ひっぱりだこ”とは磔《はりつけ》のこと蛸衣かけ(『素人庖丁初編』より)
【材料】茹で蛸…100g/酒…大さじ1/醤油…大さじ1/小麦粉…大さじ3/揚げ油…適量
【作り方】 ①茹で蛸はぶつ切りにし、酒と醤油でさっと煮て、汁気を切る。②小麦粉をままぶして170℃の油で揚げる。煮てあるので、表面が揚がれば取り出して油を切る。

 「八・九尺から一・二丈(約2.4m~約6m)に及ぶものがあり、長足で人を巻き取り、海中に引き入れて食らう」――『本朝食鑑』元禄10年(1697年)

「越中富士滑川《なめりがわ》の大蛸は牛馬を取喰い、漁舟を転覆させて人を取る。これを捕らえる術はない。この蛸の足を軒に吊るせば病気になる」――『日本山海名産図会』寛政11年(1799年)

 『本朝食鑑』は日本初の薬膳書、『日本山海名産図会』は日本各地の漁業を図解した真面目な本なので、これらの記述は信憑性があり、大蛸の被害は深刻だったようです。

 さらに『本朝食鑑』にはこうあります。

「蛸は夜に岸に上がり、八足を地につけ、飛ぶように走って畑に入り、芋を掘って食べることもある」

 まさか……と思われる方も多いでしょうが、実は「蛸は月夜に畑に入り、芋や大根を食べる」という伝説は、日本各地に残っています。